2025年の今、ワークライフバランスは労働者にとって最優先事項となり、場合によっては給与よりも重視されている。それにしても、私たちはなぜワークライフバランスの維持をこれほどまでに難しいと感じるのだろうか。
理由のひとつは、この言葉が何を意味するかについて、意見がまるで一致しないことだ。専門家の間でも、ワークライフバランスの定義にコンセンサスは存在しない。多くの評論家に言わせれば、「ワークライフバランス」という言葉は1990年代の遺物、空想の産物、達成不可能なものであり、米国内にはこの概念を解体しようとする動きもある。しかし最近になって、ふたりの専門家が的確な分析を示した。
ワークライフバランスの何が崩れているのか?
あなたも、あなたの仕事仲間のほとんども、仕事上で同じ目標を掲げているのではないだろうか。つまり成功を収めつつ、ストレスとは縁のないバランスのとれたキャリアを達成し、維持することだ。しかし問題は、どうすればそこにたどり着けるかだ。
バランスの達成が時に綱渡りになるのは、それが何を意味するのか、意見がまるで一致しないためだ。崩れているのはワークライフバランスではない。その定義が崩れているのだ。
多くの人々は「ワークライフバランス」という言葉を、「完璧なバランス」や「均等なバランス」のことだと解釈している。そして仕事、娯楽、人間関係、自己の4要素が完全に均衡していなければならないと考えているのだ。
一方で大企業は、「ワークライフ・インテグレーション(統合)」といった流行語に入れ込んできた。例えばジェフ・ベゾスはアマゾンの社員に対し、ワークライフバランスの追求をやめるように勧めた。この言葉には「両者がトレードオフの関係にある」という含みがある、ということがその理由だ。
それならば、「インテグレーション」は何を意味するのだろう? この言葉に反発する人々に言わせれば、前提にあるのは24時間つながりを保つことだ。社員に無料で電子機器を提供する組織は、「社員はいつでも電話を取らなければならない」というメッセージを送っている、と批判を受けている。無線機器により、社員は常に仕事とつながりを保つことを強いられ、仕事と距離を取ることができなくなっている、という批判もある。
在宅勤務をする社員が増えるなかで、仕事と私生活の線引きはますます曖昧になっている。「ワークライフバランス」も「ワークライフ・インテグレーション」も、どちらも時代遅れの言葉になりつつあるのだ。
「自分のワークライフバランス」を定義する方法
組織心理学者のカティナ・ソーヤーとパトリシア・グラバレックは、10年以上にわたって「職場でのウェルネス」について研究を続けてきた。(ふたりの近著は『Leading for Wellness: How to Create a Team Culture Where Everyone Thrives ウェルネスのためのリーダーシップ:誰もが活躍できるチームカルチャーの作り方』)
ソーヤーはこう語る。「ワークライフバランスは、職場で最も話題に上るテーマのひとつでありながら、最も誤解されている概念でもあります。多くの人々はワークライフバランスについて、仕事と私生活を完全に50/50に切り分けることを意味すると思っています。しかし実際には、バランスを左右するのは時間ではなく、自分自身がどう感じるかです」
ソーヤーとグラバレックは近書で、こうした誤解を解くことに力を入れた。職場のウェルネスとパフォーマンスに関する自身の研究に基づき、彼女らはワークライフバランスをめぐる4つの誤解を挙げた。そしてより健全で持続可能なアプローチのために、バランスという概念について考え直す方法を明らかにした。