実際、ヒトは何かひとつかけ違っていれば誕生しなかったであろう種だ。二足歩行の狩猟採集民として出現したのちも、何度も絶滅しそうになった。それでも約10万年前、ホモ・サピエンスはアフリカから足を踏み出し、やがて地球全体を覆うまでになった。これは他のどの種も成し得なかったことだとジーは言う。
にもかかわらず、原因が何であれ、ホモ・サピエンスの絶滅は今後1万年以内に、すなわち地質年代で見れば比較的近いうちにやってくるというのが本書の核心である。小惑星の衝突がなかったとしても、恐竜は遅かれ早かれ絶滅していたとジーは主張する。それが生物の常だからだ。
この論理を現生人類に当てはめれば、ホモ・サピエンスも絶滅することになる。しかし、宇宙に移住すれば、おそらく何百万年も繁栄する可能性があるという。
古代人類史
この不安に満ちた時代に、これほど野心的なスケールの学術書が執筆・刊行されたことは心強い。本書の魅力は、古代人類史について、多くの読者にとって初耳であろう耳寄り情報が盛りだくさんな点だ。その中から3つ紹介しよう。
・およそ2万6000年前、狩猟採集民は思うように獲物が捕れなくなる中で、植物を植え、収穫が期待できる作物を栽培することで飢餓を防いでいた。だが今日、結核から寄生虫の蔓延や糖尿病まで、人類を苦しめるさまざまな病気や健康問題の裏には農業の影響がある。
・進化論によれば、生物種は競争相手がいることで成功する。競争がなくなると種の停滞が始まり、外部環境の状況や内部から作用する力の影響を受けやすくなる。
・読み書きができ科学技術に支えられた文明を築くには、何百万人もの文明人が必要となる。アイザック・ニュートンが重力理論を考案したとき、世界の人口はまだ5億人だった。そして、アルベルト・アインシュタインが特殊相対性理論を発表した1905年までに世界人口は3倍以上に増え、16億人を超えていた。
しかし、前途は多難だ。
ヒトは地球の基本的なシステムプロセスを脅かしているとジーは指摘し、特に大気中の二酸化炭素の量、種の絶滅の速度、窒素利用をめぐる問題などを挙げている。
これは人類にとって幕引きを意味するのだろうか?