「舞の海戦略」というのは、一つの企業が隣接する複数の技術を占有するもので、例としては
・日東電工(エレクトロニクス、建築などの接着剤、先端材料)
・JSR(半導体製造に使用する化学薬品のフォトレジスト、偏光フィルム、輝度フィルムなど)
・ファナック(数値制御、ロボット、ファクトリーオートメーションなど)
もう一つは、複数の日本企業が1つの技術を支配するものだ。
・エレクトロニクス向けファインケミカル(世界シェアの80%が日本)
・航空機、自動車、ゴルフクラブ向けの炭素繊維(日本が65%)
・半導体材料・製造装置(日本:45〜100%)
こうした事業体への転換に成功した企業の一つが、日立製作所である。複合企業から脱却し、技術リーダーへとピボットした。
既存のコアコンピタンスをどうやって拡張するかを、ウリケ教授は著書で語っている。
さて、日本研究を長年やってきたウリケ教授が「面白い」と言ったのが、宮城県利府町にある1989年設立、従業員数70名ほどの精密研磨加工企業、TDCだ。
TDCには、毎日、世界中から注文が舞い込むが、もとは半導体業界の「下請け体質」企業だった。下請けであれば、景気の動向に大きく左右されてしまう。そこで、1998年に方向転換し、1ナノメートル(1億分の1センチ)以下の超精密研磨の技術に磨きをかけた。そして、JAXAの小惑星探査機「はやぶさ2」に搭載された微細サンプル回収コンテナの開発に参画。容器の内部をナノメートル単位で平滑に磨き上げて、「はやぶさ2」は小惑星リュウグウから採取した物質を摩擦で破損させずに、2020年に無事に帰還。「『できない』を言わない」をモットーにした研究の賜物だった。
では、どこが舞の海戦略と同じなのか?
一点目は、「無理難題ほど大歓迎!」という会社のカルチャーがあるため、どんな難題を頼まれても、研究する。よって、舞の海が「技のデパート」と呼ばれたように、難題ごとに新たな技術が増えていく。
2021年にForbes JAPANの「スモール・ジャイアンツ」アワードでカッティングエッジ賞を受賞した際の記事には、大学医学部からの依頼を紹介している。その依頼とは「赤ちゃんを包んでいる羊膜をクール便で送るから、磨いて透明な膜にしてほしい」だった。
羊膜は生体アレルギーが出ないために、角膜移植に使いたいという。当然苦戦したが、凍らせて磨くことで見事に透明にした。
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