「死体花」という別名もある寄生植物、ラフレシア属の既知の全42種は、生息環境である熱帯雨林のとめどのない破壊より、絶滅の危機にある。
東南アジア島嶼部とマレー半島に分布する謎の植物「ラフレシア」は、世界で最も不可解な花の一つだ。
まずは、植物としてあまりに変わっている。一生の大半をつる植物の中に隠れて過ごし、葉、茎、根のいずれも観察できない。葉緑素すらなく、大半の植物が行う光合成ができない。このようなわけだから、ラフレシアは菌類ではなく植物だとどうしていえるのだろうと、当然のことながら筆者は不思議だった。
「葉緑素がない(葉さえ持っていない)植物は多い。その中でラフレシアは、花が咲く植物なら持っているであろう部位(雄しべ、花粉、柱頭など)を、維管束系を除いてすべて備えており、しかも種を含む実を結ぶ」とメールで説明してくれたのは、植物学者のクリス・ソログッド博士だ。ソログッド博士は、副園長と科学責任者を務めるオックスフォード大学附属の植物園・樹木園で、謎の多い寄生植物と食虫植物、特にラフレシア種の種形成と適応放散を研究するかたわら、ライターや植物アーティストとしても活躍している。
「実際ラフレシアは生理学、解剖学、遺伝学のいずれの面でも、菌類にはまったく似ていない。同じような方法で他の植物の内部で育つのは、単なる偶然(=収斂進化)だ」とソログッド博士は続ける。
ラフレシアは、いわば盗みの名手であり、寄生先のつるの中で密かに暮らす「植物版サナダムシ」のようなものだ(本体は、寄主組織内に食い込んだごく微細な糸状の細胞列からなり、ここから直接花を出す)。宿主の植物から、栄養と水を盗むことで生きている。

驚くことにラフレシアは、DNAまで宿主から盗む。遺伝子の水平伝播と呼ばれる、細菌ではよくあるプロセスだ。ラフレシアは、この「分子レベルの盗癖」を持つという点で有名な植物だ。また、遺伝子の水平伝播が原因で、遺伝的性質と系統発生の研究が極めて難しい。
こうした変わった特徴を聞いても特にこの植物に関心は持てないという人も、ラフレシアが、キャベツのような大きいつぼみをつけて、ゴムのように丈夫で巨大な花を咲かせるとなれば、興味が湧くのではないだろうか。直径が122cmもある見事な花が咲く種もあり、「モンスターフラワー」との俗称がある。