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北米

2025.03.19 14:15

「遅延」「拒否」「除去」大手保険会社CEOを射殺した3つの銃弾の意味とは?

ユナイテッド・ヘルスケアのCEOブライアン・トンプソン殺害の容疑者ルイジ・マンジョーネ(Photo by Kyle Mazza/Anadolu via Getty Images)

アメリカの金利はトランプ大統領が吠えても高止まりし、住宅価格は高騰しているため、いまは若者の多くが持ち家を持つというアメリカンドリームをあきらめている。ここでも持てる人と持てない人の分断が存在している。

トランプ大統領が約束した黄金時代が本当に来るならば、株価はさらに上昇し、職はメキシコや中国に流出したものがアメリカに戻ってきて失業率は減るだろう。

しかし、輸入品には関税がかけられ、物価は上がり、物価が上がるため金利は低くならず、家は買えず、医療保険にも入れない。そういった多くの人々が、すでに家を持っていて保険に入っている人々を見てどう思うのかというところを、あの3つの銃弾が表している。

トンプソンCEO殺人事件の容疑者を賛美し、ヒーロー扱いする空気が世に止まらないのは、決してトランプ対アンチトランプの分断からではない。移民問題や関税問題、連邦政府の縮小、ウクライナ紛争への関与などの是非でもない。

殺人事件の容疑者を称賛するほど追い込まれた人々の気持ちを救済する機能は、いまのアメリカ資本主義にも、あるいは選挙を通じた民主主義にも存在しないという叫びとでも言うべきものである。

この殺人事件の後、カリフォルニア州では、医療に必要な健康保険の請求をAIによって拒否することが違法になった。

この新しい法律は「医師が決定を行う法(Physicians Make Decisions Act)」として知られ、州の上院議員であるジョシュ・ベッカーが提案した。主なポイントとしては、医療専門家が保険の決定を行うことを義務付け、「遅延」「拒否」「除去」がAIによって行われてはならないというものである。

しかし、ポイントがずれている気がしないだろうか。確かにユナイテッドヘルスケアはAIのアルゴリズムで保険の「遅延」「拒否」「除去」決定を繰り返したと報道されているが、AIは会社の方針に従って現場の請求書を仕訳しただけで、なにか恣意的な行為をしたわけではない。

むしろAIを禁止することによって、ますます検討に時間がかかり、人間に「遅延率」「拒否率」「除去率」がノルマとして与えられた場合、もっともっと「遅延」「拒否」「除去」される気がするし、透明性も後退するのではないだろうか。

そろそろ、「バイデンが悪い、トランプが悪い、あるいはAIが悪い」といった仮想敵をあげつらった短絡的な批判から脱却すべきときである。もちろん、民間の仕事を政府に戻せというのもまったく解決にならない。

ではどうしたらいいのか? 資本主義と民主主義の自走こそがユートピアをつくると信じてきた時代を生きてきた筆者にはわからない。

トンプソンCEO殺人事件の被疑者の黙秘は、「わからないから銃をとるしかなかった」とでも言っているようにも聞こえる。

だとしたら、それはかつてないほど米国が追い込まれた社会となっているのではないか。そしてそれは黄金時代が来ても、おそらく変わることがない。3つの銃弾は、アメリカ人をして、現代を成熟社会と表現するのにとても躊躇を覚えさせる事件なのだ。

連載:ラスベガス発 U.S.A.スプリット通信
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文=長野慶太

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