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北米

2025.03.19 14:15

「遅延」「拒否」「除去」大手保険会社CEOを射殺した3つの銃弾の意味とは?

ユナイテッド・ヘルスケアのCEOブライアン・トンプソン殺害の容疑者ルイジ・マンジョーネ(Photo by Kyle Mazza/Anadolu via Getty Images)

ファインマンの著書は、火災保険の保険会社の実情を暴いてベストセラーとなり、この本だけでウィキペディアの項目が1つ立ち上がっているほどである。そこには次のような批評家による要約も掲載されている。

「近年、保険会社は保険加入者よりも株主を優先している。そして、損失を減少させる最も簡単な方法は、請求を支払わないことである。したがって、彼らは遅延させ、保険料の浮き(保険料を受け取ってから請求を支払うまでの時間差)を利用して投資した保険料で最大の利益を上げる。あるいは、単に支払いの責任を否定し、必要であれば裁判でその拒否を防御し、保険加入者の資源や戦う意欲が尽きたときに諦めることを期待している」

つまり、トンプソンCEOの殺人事件は、腰痛を抱えても保険適用にならず、痛みに苦しむ若者が、正義の鉄槌としてメッセージを具体的に薬莢に書き込み、かのベストセラーを想起させることで保険業界全体を脅迫し、見せしめとして1人の経営者を射殺し、セキュリティカメラにあふれるニューヨークで案の定逮捕されたという事件とも言える。

容疑者が黙して語らなかったため、詳細がわかるまで約2カ月を要したが、問題はその後で、健康保険の保険料が高くて加入できない人々を中心に、相当数の人々が犯人を支持するという社会現象が起き、それが今日まで続いているということだ。

たとえば模倣犯も現れている。フロリダ州の女性が、やはり医療保険大手の会社「アンセム・ブルークロス・ブルーシールド」の保険対応に業を煮やし、電話をかけ、「遅延、拒否、除去。次はあなたたちだ」と言い放ったという。この女性は、特に武器を準備したり、犯行を計画したりしたわけではないが、脅迫罪で逮捕されている。

メディアが報じない社会の分断

先日の施政方針演説では、トランプ大統領が最長の時間を使ってアメリカの黄金時代が始まると叫び、それに対して民主党員が徹底的に冷笑し、女性議員たちはピンク色の法被のような上着を着て抗議を示すなど、さらにはヤジを飛ばした議員が退場させられるなど、前代未聞の分断ぶりを見せた。

しかし、この殺人事件1つを考えても、メディアが喜んで採り上げる国会の分断は社会の分断を反映した報道にはなっていないことがよくわかる。

社会の分断は、あいかわらず持てる人と持てない人の分断である。ここで言えば、保険に入れる人と入れない人の分断であり、さらに高額なプランに入ることで、「遅延」「拒否」「除去」といった屈辱的な思いをしないで済む人々とそうでない人々との間の分断である。

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文=長野慶太

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