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2025.03.25 16:00

大学の研究シーズが世界の持続的発展を促す 関西スタートアップアカデミア・コアリション(KSAC)の挑戦

今、産業界の基盤強化あるいは新陳代謝、さらには社会の持続的発展を促す新星としてスタートアップを待望する声が日本でも鳴りやまない。その待望論を正面から受け止め、関西から世界に向けて実績を積み重ねているのがKSACだ。その活動内容や事業化が期待できるシーズを取材した。


KSAC(ケーサック)は、「関西スタートアップアカデミア・コアリション(KANSAI STARTUP ACADEMIA COALITION)の略称だ。2021年に関西エリアを基盤とする14の大学を中心に38機関にて設立された。現在(25年1月時点)では、大学27、自治体9、銀行・産業界・商工会議所などの協力機関41、事務局2による集合体となっており、設立時と比べて倍以上のスケールアップを果たしている。

その設立の目的は、世界に伍するスタートアップ・エコシステムの構築だ。各大学における研究シーズをいかに育てて社会に実装していくか。そのためにアントレプレナーシップを有する学内人材(教授をはじめとする研究者、大学院生、学生)をいかに育てるか。有望な研究成果や先端技術をユニコーンとして羽ばたかせるためにいかに資金を集めていくか。スタートアップを起業した際に活躍してくれるCXO人材をいかにして確保するか。これらの「いかに」を突き詰めることによって大学発スタートアップを連続的に創出し、日本国内における関西エリアのプレゼンス、さらには世界における日本のプレゼンスを高めることを自らの使命・宿願としている。

学究的世界からの跳躍を目指す学内人材にとっては、やはり資金の欠如が大きな壁となる。

研究シーズとベンチャーキャピタルを結びつけていく活動はもちろんのこと、公募と審査の過程を経てKSACからも有望なシーズにGAPファンド(研究成果と事業化の間のギャップを埋めるべく、事業化に向けて達成すべき目標を設定し、ビジネスモデルのブラッシュアップ、試作品の製作、仮説検証のためにデータなどの整備を推進するための資金)を提供している。

また、オープンイノベーションの起点となるべく、ピッチプレゼンテーションやネットワーキングのイベントも積極的に開催。昨年以降、このオープンイノベーションに向けての活発な動きは、国内から国外へと拡大中である。昨秋にはシンガポールで、今年の2月には米国でネットワーキングイベントを開催している。


大学の研究シーズを世界のビジネスの舞台へ
今、起業家に求められるマインドセットとは

KSACのプログラム代表者である京都大学の副理事・成長戦略本部長の室田浩司に「KSACの現状認識」や「大学発起業家に求められる感覚や行動とは何か」について聞いた。

京都大学では、同大学の100%出資によって2014年に京都大学イノベーションキャピタルというVC(ベンチャーキャピタル)が立ち上げられた。そこで16年から代表取締役社長を務めた後、20年から同大学で成長戦略本部長に就任しているのが室田浩司(下写真。以下、室田)だ。

むろた・こうじ◎京都大学副理事・成長戦略本部長、関西スタートアップアカデミア・コアリションプログラム代表者。メーカーと投資会社を経て、2013年に京都大学医学研究科特任教授(医学URA室長)、16年に京都大学イノベーションキャピタル代表取締役社長を経て20年から現職。中小企業診断士、国際公務投資アナリスト(CIIA)
むろた・こうじ◎京都大学副理事・成長戦略本部長、関西スタートアップアカデミア・コアリションプログラム代表者。メーカーと投資会社を経て、2013年に京都大学医学研究科特任教授(医学URA室長)、16年に京都大学イノベーションキャピタル代表取締役社長を経て20年から現職。中小企業診断士、国際公務投資アナリスト(CIIA)

現在、KSACには27の大学が参画しているが、産業界・金融界・自治体などを含めて80以上の機関が活動するKSAC全体の主幹機関は京都大学が担っており、プログラム代表者には室田が就いている。

つまり、「いかにして大学にある研究成果や先端技術を社会に実装し、多様な社会課題を解決していく具体的行動の拠点になるか」「そのためにいかにして学外との連携を深めていくか」といった諸課題に対峙するプロフェッショナルが室田なのだ。

今こそ、日本の大学発起業家は世界へ

「産官学のさまざまな立場から80以上もの機関が参画し、有機的に連携・運営できているKSACのような大学発スタートアップ・エコシステムは、海外でも珍しいのではないでしょうか。今、KSACではアントレプレナーシップ教育のプログラムを共同で開発したり、オンラインで他大学のカリキュラムを受けられるように整備したり、事業化が期待できる研究シーズへのGAPファンドの採択審査プロセスに自治体や産業界からも広く加わっていただいたりと、あらゆる連携を進めているところです」

現在、そのKSACが特に強みであると断言できる研究領域はどこなのだろう。

「KSACに参画している関西の27大学を見渡すと、事業化や社会への実装化という面で特に有望視できる研究領域は3つと言えるでしょう。細胞治療や遺伝子治療も含む『ライフサイエンス』、水素や次世代太陽光発電、核融合などの『クリーンエネルギー』、そして化学を基盤にして生み出される『新素材』です。これらの領域は、ユニコーン企業として大きな可能性を有した研究シーズがあります。しかし、KSACの設立以来の課題となっているのが、『グローバルでの展開力』です。現在は、これまでに各大学が小規模ながらも挑戦し、試行錯誤してきた成果をKSACの活動に広げている段階と言えます。海外において本当にコネクトすべきパートナーやネットワークが見つかり始め、海外での土地勘が生まれてきている状況です」

今、KSACにおける学外との連携は、海外にも大きな軸足が置かれようとしている。24年10月にはシンガポールで開催された展示会「TechInnovation」にKSACとしてはじめての参加を果たした。KSACの参画大学から5チームのプロジェクトが出展し、現地でKSAC主催のネットワーキングイベントも開催。各研究シーズのグローバルな事業化の実現に向けて、海外の事業会社やVC、支援機関などとのネットワーク構築を行った。

その際の所感や具体的な収穫については、次ページからの研究者インタビューにて取り上げている。また、25年1月には京大・阪大・神戸大発スタートアップなどを中心にシンガポールでイベントを開催し、現地企業との間で120件以上のマッチングに成功を収めた。

「さらに、25年2月には米国のボストンとニューヨークでネットワーキングイベントを開催しました。『KSAC Boston/NYプログラム』と題し、バイオ・ライフサイエンス分野で海外展開を見据えて事業化を検討している研究者やチームメンバーを対象に、海外の事業会社やVCとのネットワーク構築、事業化に向けた知識やスキルの習得を目指したプログラムです。いすに座った状態でレクチャーを受けることだけがアントレプレナー教育ではないと、私たちは考えています。自ら考え、積極的にさまざまな国や文化とコミュニケーションを図り、新たな関係性を築き上げていくことが大事なのです。自らを重んじ、自らを敬いながら、グローバルに磨きをかけていく。そうした『自重自敬とグローバリゼーションのバランス感覚』こそが、今の日本のアントレプレナーに求められているのだと思います」

事業化を目指す4つの研究シーズ

研究成果を通して社会の課題解決に真摯に向き合い、ユニコーン企業として世界に羽ばたく可能性を秘めた研究シーズを紹介しよう。

蚊をまねた「痛くない注射針」と自動採血システムで医療を変える

鈴木昌人
関西大学 システム理工学部 機械工学科 教授

すずき・まさと◎マイクロ・エレクトロメカニクス(MEMS 工学)が専門。ロボット・マイクロシステム研究室に所属し、マイクロマシンと呼ばれる目に見えないほど小さな機械構造の作製・開発を行っている。
すずき・まさと◎マイクロ・エレクトロメカニクス(MEMS 工学)が専門。ロボット・マイクロシステム研究室に所属し、マイクロマシンと呼ばれる目に見えないほど小さな機械構造の作製・開発を行っている。

例えば、糖尿病患者は治療のために自分で血糖値測定(微量採血を行う器具で指先などに針を刺して実施)を毎日数回も行っている。その際の痛みや日常的に針が繰り返して刺さることによる皮膚へのダメージは、治療を忌避する要因にまでなってしまうという。また、乳児や幼児が病院で採血される際に泣き叫んでいる痛ましい姿を見たことがある人は多いだろう。鈴木晶人は蚊の無痛採血メラニズムに着目した。

「蚊に血を吸われたときに人間は痛みを感じません。先端直径0.09mmという世界で最も細い中空針と、それを用いた『痛くない自動採血装置』はそこから着想を得たものです。針が細ければ細いほど、繰り返して刺すことによる皮膚へのダメージも抑えられます。この装置とAIによる『自動血管探索技術』を組み合わせながら、用途に合わせて実用化・事業化することを目指しています」

今後、日本の医療現場では看護職員が不足していくと考えられる。全自動採血システムは患者が得られるメリットも大きいため、人手が不足する未来において高い需要が期待できる。

「日本に加えて米国、欧州、中国も視野に入れると、全自動採血が獲得可能な市場規模は数兆円(看護師の数と年収、注射業務の時間から推定)にもなると考えています。医院における治療補助はもちろん、家庭でのさまざまな血液検査や過疎地域での遠隔治療などにも使えるので、潜在的なニーズは高いと言えるでしょう」

さらに、先端直径0.09mmの無痛針は採血だけでなく、皮下への投薬注射にも利用可能だという。

「美容分野におけるしわ取りのためのボトックス注射では、患部に数ミリ間隔で数点から数十点連続で注射します。患者への心理的負担は大変に大きなものです。こうした現場にも無痛針を届けていけたらと考えています」

通常の採血針は直径0.6〜0.8mmだが、開発した針は0.09mmで痛覚神経を刺激しづらい。針を刺す際に回転を加える等の工夫も重ねた。
通常の採血針は直径0.6〜0.8mmだが、開発した針は0.09mmで痛覚神経を刺激しづらい。針を刺す際に回転を加える等の工夫も重ねた。

糖尿病で足を失ってしまう人を 減らすシステムで世界をリード

三宅啓介
大阪大学 医学部附属病院 心臓血管外科 助教

みやけ・けいすけ◎2009年、大阪大学医学部卒業。15年より心臓血管外科医に。18年より大阪大学大学院で再生医療を研究し、21年より医療機器開発に着手。現在、大阪大学で心臓血管外科診療および研究開発に従事。
みやけ・けいすけ◎2009年、大阪大学医学部卒業。15年より心臓血管外科医に。18年より大阪大学大学院で再生医療を研究し、21年より医療機器開発に着手。現在、大阪大学で心臓血管外科診療および研究開発に従事。

三宅啓介は、これまでに大阪大学医学部附属病院において心臓血管外科医として糖尿病の患者も数多く診てきた。

「糖尿病には足潰瘍という合併症が存在します。足に傷ができやすく、細菌に感染して、治りにくい状態になることがあるのです。重症になると足全体が腐ってしまう壊疽という状態にまでなり、下肢大切断につながります」

日本とアメリカにおける下肢大切断の発生数を合算すると、年間で120万人にもなるという。どうすれば、この問題を解決していけるのか。

「傷を早く修復し、細菌の感染を治療する。このふたつを同時に行う必要があります。しかし、細菌がバイオフィルム(バリア)を形成している傷を治すことは、容易ではありません。殺菌のために強い消毒剤を使うと傷そのものが悪化してしまうからです。そこで、私たちは安全に強い殺菌力を発揮することができる新規治療のシステムを開発しました。開発には、大阪大学大学院工学系研究科の准教授・北野勝久さんも加わっていただきました。北野さんは、殺菌技術の開発を強みとしたエンジニアでもあります」

細菌の感染治療が安全に行える。これこそ、三宅たちが開発した足部感染創傷治療システムの最大の強みであり、世界の研究機関をリードしている部分でもある。このまれなストロングポイントは、「心臓血管外科医」×「殺菌技術開発のエンジニア」という大阪大学内のプロフェッショナルの共創によってもたらされた。

「今、フェーズとしては臨床試験の前段階として動物実験を行って有効性を検証しているところです。2026年には会社を立ち上げ、27年に臨床試験へと進み、29年に日本でシステムを上市した後、31年にはアメリカで上市していくタイムラインで考えています」

これから上市していくシステムのイメージ。身体には害を及ぼさない、一瞬で殺菌効果を生み出しすぐに消える化合物が鍵。
これから上市していくシステムのイメージ。身体には害を及ぼさない、一瞬で殺菌効果を生み出しすぐに消える化合物が鍵。

人間がクリエイティブな作業に集中するための無人ラボを開発

小野寛太
大阪大学 大学院工学研究科 物理学系専攻 教授

おの・かんた◎東京大学大学院理学系研究科博士課程修了後、同大工学系研究科助手、高エネルギー加速器研究機構准教授を経て現職。自律実験、マテリアルズ・インフォマティクス、量子ビーム科学が専門。
おの・かんた◎東京大学大学院理学系研究科博士課程修了後、同大工学系研究科助手、高エネルギー加速器研究機構准教授を経て現職。自律実験、マテリアルズ・インフォマティクス、量子ビーム科学が専門。

「私たちが取り組んでいるのは、材料研究開発の自動化です。『人間がほとんど介在することなく、ロボットとAIで新しい材料を生み出す』というところを目指しています。新しい材料の開発には、ふたつの工程が必要です。ひとつが、何かと何かを混ぜ合わせるなどして、今あるものとはまったく違う未知なる材料を生み出す工程。もうひとつが、その混ぜ合わせたものがきちんとした特性を有しているかどうかを確認する工程になります。このふたつの工程を自動化したいと考えているのです」

従来の材料研究開発は、人間の手作業に負う部分が大きかった。ある粉と別の粉を混ぜ合わせる際、それが手作業で行われると、どうしても混ぜ方にムラが生じる。同じものを混ぜるときの再現性が難しく、いくつかの組み合わせを試すときにも同じ条件で行うことが困難になる。

「そこは、全自動の粉砕・混合ロボットで混ぜ方を制御すればいいのです。ロボットは精密な単純作業の繰り返しで再現性を担保するのと同時に、人間には不可能なテクニックで混ぜ合わせることでも新しい材料の創出に貢献します」

こうして、時間を要するうえに不確実だった単純作業から人間が解放される。そして、小野寛太が構想する「無人ラボ」は、混ぜ合わせたものの計測と得られたデータの解析までも見事に自動化しているのが強みと言える。

「混ぜ合わせたものはロボットによって適切な量が計り取られ、X線の装置へと運ばれます。その装置のなかで、原子がどのように配列しているかの計測が行われるのです。そうして得られたデータは、ネットワークを介してパソコンに取り込まれ、AIによって解析が進められます」

例えば、この無人ラボシステムは全固体電池の材料開発などにおいて活用できるという。

右側にあるのが全自動の粉砕・混合ロボット。左側には搬送ロボットとX線装置。これらをコンパクトなサイズでコストを抑えて提供。
右側にあるのが全自動の粉砕・混合ロボット。左側には搬送ロボットとX線装置。これらをコンパクトなサイズでコストを抑えて提供。

細胞を急速冷凍することで分子の高感度観測を可能に

藤田克昌
大阪大学 大学院工学研究科 物理学系専攻 教授

ふじた・かつまさ◎光を用いた顕微鏡技術の開発とバイオ応用の最前線で活躍。ラマン散乱顕微鏡や超解像光学顕微鏡の革新に挑み、細胞レベルの分子観察を可能に。最近では、凍結細胞を観察できる新型顕微鏡を開発。
ふじた・かつまさ◎光を用いた顕微鏡技術の開発とバイオ応用の最前線で活躍。ラマン散乱顕微鏡や超解像光学顕微鏡の革新に挑み、細胞レベルの分子観察を可能に。最近では、凍結細胞を観察できる新型顕微鏡を開発。

藤田克昌らの研究グループは、細胞などの生体試料を凍らせて分子を高感度に観察できるラマン散乱顕微鏡の開発に成功した。

「ラマン分光法というものがあります。試料の化合物状態や結晶構造に関する情報を得るための光を使った顕微鏡による分析方法です。試料にレーザー光を照射した際に発生するラマン散乱光を検出することで情報を得ていくのですが、ラマン散乱光は非常に微弱です。そのため、細胞などの生体試料ではレーザーの出力を上げることによって細胞を損傷してしまったり、長時間にわたって観察することによって状態が変化してしまい正確な情報が得られなかったりといった課題がありました。しかし、私たちは摂氏マイナス185℃の液体プロパンで生体試料を急速冷凍し、さらに液体窒素を流して凍った状態を維持することで、細胞を壊すことなく長時間の観察を可能にする手法を開発しました」

その急速冷凍は、1,000分の2秒ほどで行われるというから驚きだ。速く冷凍しないと氷の結晶が大きくなってしまって細胞が壊れてしまう。この手法は、細胞内の機能を調べるといった基礎研究の段階はもちろんのこと、実際の細胞産業にまで役立つものであるという。

「例えば、再生医療のために培養して凍結させた細胞の品質管理(非破壊検査)にも利用できるわけです。私たちの手法であれば、製造・保管・使用という各段階において細胞の品質評価を行うことができます。2026年春には、既存のラマン散乱顕微鏡に取り付ける装置(細胞を凍結させて維持するアタッチメント)を販売していきたいと考えています」

これまでに企業と共同研究を行うなかで、装置に需要があることの確信を得た。25年には実用化に向けてスタートアップを立ち上げる。

創薬、生殖医療、細胞治療、再生医療、畜産、食品など幅広い分野でさまざまな生体試料が凍結されているが、それらの品質管理に使える。
創薬、生殖医療、細胞治療、再生医療、畜産、食品など幅広い分野でさまざまな生体試料が凍結されているが、それらの品質管理に使える。

Promoted by KSAC | text by Kiyoto Kuniryo | photographs by Shuji Goto | edited by Akio Takashiro