ティム・クックたちには、端末上でより小規模な大規模言語モデル(LLM)を動かし、データをローカルだけにとどめるアプローチを選ぶ可能性もある。そうすればプライバシーを守りながら開発を進められるが、実際にはすでに多くのAndroid端末が同様の仕組みを用いつつ、より正確な結果を得るためにクラウド側の大型AIモデルを活用している。
最終的な手段としては、AI開発を外部に委ね、Androidで提供されているようなモバイルAIや、ChromeOSやWindowsがPCで実現しているAIの利点をアップル製品にも持ち込むやり方がある。実際、アップルはすでにOpenAIと協力し、Siriの結果を改善しようと試みているが、現時点では「アップルらしい基準」に達しているとは言い難い。
Apple Intelligenceはこの先どうなるのか
Power Onニュースレターで執筆するマーク・ガーマンは、ティム・クックが直近で取り得る具体的なステップを示している。アップルの拡大経営陣が一堂に会する年次合宿では、今回の失敗の原因や次に取るべき施策が主な議題となるだろう。話し合いの多くは技術的な内容に及ぶとみられるが、同時にアップルが進めてきたAI戦略が世間からどう見られているかについても検証されるはずである。
現時点でのApple Intelligenceの成果は、WWDC 2024やiPhone 16ファミリーの発表時、さらにはテレビやオンラインで継続的に打ち出されてきた宣伝内容と比べて大きく食い違っている。
ガーマンによれば、アップルの上層部全体を見渡しても、大規模な人事刷新が行われる可能性は低いという。彼は次のように述べている。
「もし大がかりな入れ替えをしたら、アップルは世界的にも著名なAI分野の専門家であるジョン・ジャナンドレアを迎えながら、彼を成功できる立場に置かなかったことを認めることになります。それではクック体制が外部採用にまた失敗したと思われるでしょう。グレッグ・ジョズウィアックやボブ・ボーチャーズは社内での影響力が大きいので、どこへも動かないでしょうし、クレイグ・フェデリギも安泰です。つまり、アップルは今いる責任者たちといっしょに進むしかないのです」
要するに、Apple Intelligenceの実装を決定してきたティム・クックのチームこそが、この苦境を解決する役目も担わなければならない。
Apple Intelligenceは過去の決断の代償を払う
プライバシーを重視してきたアップルの方針は、AIが台頭する現在の状況下では不利に働いている。競合他社と異なる道を選び続けた結果、その差は広がる一方だ。
端的に言えば、アップルはビッグデータを必要とするAI分野で、「データを使わずにビッグデータを扱う」という難題に直面している。「アップルにしかできないやり方」でAIを実現するという期待もあるが、もし何もない状態から大きな成果を生み出せるなら、アップルはその伝説的なブランド力をさらに確かなものにするだろう。