私たちは毎日、人間関係を形成する数えきれないほどの言葉を口にしている。大抵のネガティブなやり取り、例えば口をついて出た人を傷つけるような言葉でさえ、意図したものではない。だが、タイミング悪く発せられたある言葉がわだかまりの種を植え付け、信頼が徐々に損なわれることもある。
あなたが選ぶ言葉は絆を育むこともあれば、親密な関係を台無しにしてしまうこともある。そして謝罪だけでは、軽率なひと言が残した傷を癒すには不十分なこともある。愛のあるコミュニケーションの鍵は、意識をすること。特に、対立時には言葉を慎重に選ぶ必要がある。
配慮の行き届いたコミュニケーションをするためには練習が必要だが、まずは以下の4つの表現を避けることから始めるといい。これらの表現は一見無害に思えるかもしれないが、時が経つにつれ、取り返しのつかないダメージを与える可能性がある。
1. 「そんなに神経質にならないで」
この言葉は相手の感情を否定するだけでなく、「無効」にする。あなたの感情は間違っている、あるいは誇張されているとパートナーに伝えていることになる。その結果、パートナーは自分の感情に疑問を抱いたり、平和を保つために感情を抑えなければならないと感じたりする。長期的に見ると、ふたりの信頼関係と感情的な安心感は弱まり、気持ちが離れていくきっかけになるだろう。
専門誌『フロンティアーズ・イン・インテグレーティブ・ニューロサイエンス』に2022年に掲載された研究では、安心感が自律神経の働きに大きく関わっていることを明示している。感情的な拒絶を経験すると、脳の神経がそれを一種の脅威として認識し、相手との意思疎通を拒んだり、心を閉ざしたりといった防御反応を引き起こす。
これは脳が、拒絶あるいは拒絶に対する恐れすらも人間関係における潜在的なリスクだと判断し、相手とのつながりを追求するよりも、自分の身を守ろうとするためだ。それとは対照的に自分の感情が認められていると感じると、脳の神経は整った状態を維持し、相手とのつながりを受け入れ、信頼と親密さを増す。
あなたは、代わりにこう答えるといい。
・「あなたにとってこれは本当に重要なことなんだね。その理由を教えてもらえないだろうか」
・「それほどあなたに影響を及ぼしているとは、気づかなかった。詳しく聞かせて」
愛とは常に同意することではなく、相手に自分の感情が大切にされていることを理解してもらうことだ。自分の感情がきちんと受け取められていないと感じた瞬間、人は感情を共有しなくなる。そして、本音の会話が途絶えた瞬間、つながりも失われる。
2. 「私は大丈夫」(大丈夫ではないとき)
タフな一日を過ごしたとする。パートナーは何かがおかしいことに気づき、あなたの緊張感や感情的な距離を感じ取って「大丈夫?」と優しく尋ねる。悩みを打ち明ける代わりにあなたは視線をそらし、つくり笑いを浮かべて「大丈夫」と答える。だがそれは本心ではないとあなたは気づいており、パートナーもそのことをわかっている。
明らかに無理をして「大丈夫」と答えると、心を通わせるどころか壁を作ってしまうことになる。この小さな回避行動が積み重なることで心の距離が生まれ、パートナーがたとえ心からあなたを理解したいと思っていても、あなたは本音の会話を望んでいないと伝えることになる。
専門誌『ザ・ジャーナル・オブ・サイコロジー』に今年2月に掲載された研究では、恋愛関係における感情の抑制は関係に対する満足度の低下につながり、孤独感が増すことが指摘されている。また、女性は否定的な感情を抑え込むと心の距離を一層強く感じ、不満や孤独を抱え込みやすくなることも明らかになった。
「大丈夫」の代わりに、次のような答え方がある。
・「調子がいまいち。対処するために少し時間がほしい」
・「気にかかっていることがあるけれど、どう話したらいいかまだわからない」
正直なコミュニケーションは絆を築き、感情の抑制は距離を生み出す。本心を話そうとわずかに試みるだけでも、親密さにつながる。