こうして誕生したのが「群狼作戦(ドイツ語ではWolfsrudeltaktik)」だ。名前の割にはいたってシンプルな作戦で、Uボート1隻で敵に攻撃を仕かけることをやめたのだ。代わりに、Uボート1隻が敵の船を見つけた場合は、こっそりと尾行すると同時に、近くに展開している他のUボートに、位置を示す座標を無線で連絡する。そうして複数のUボートが集まったら、1つの群れを形成して敵の船をさまざまな方角から取り囲み、最後は一斉攻撃を行う。
この群狼作戦は、敵に壊滅的な打撃を与えた。重要物資を積んで大西洋を航行する商船は、容赦ない攻撃にさらされた。輸送船団全体が、波間に沈んでいった。魚雷があらゆる方向から攻撃してきたからだ。連合国軍艦隊の兵士たちは、Uボートによるこうした攻撃を、「群狼作戦の脅威」と呼んだ。彼らにとっては、海そのものを敵に回したように感じられた。
デーニッツが考案したこの戦略で、大西洋は一時期、最も危険な場所の1つと言われるようになった。海中に潜む、オオカミの群れのような潜水艦が狩りを始めたら最後、生き残れる船は1隻もなかった。
米海軍も、太平洋で展開
群狼作戦を先駆けて実施したのはドイツだが、それを改良して破壊力を強めたのは米海軍だった。
太平洋は広大だ。あまりにも大きいため、潜水艦が単独でパトロールを行なっても、敵の船に遭遇せずに何週間も過ぎることがあった。しかし、潜水艦が連携して集団で動いた場合は別だ。米海軍の潜水艦は、広大な海域を網羅して、機密情報を共有したり、共同で奇襲攻撃を計画したりすることができた。
米海軍の潜水艦が群狼作戦として標的にしたのは、戦闘力をもつ軍艦だけではない。狙っていたのはむしろ、日本の補給線だった。日本の産業は、占領地でとれる石油やゴム、原材料に依存しており、すべてを海上輸送に頼っていた。米国版の群狼作戦では、そうした日本の補給線を組織的に狙って供給源を絶ち、兵器を使えなくしたのだ。
日本が戦争を継続できなくなったのは、こうした戦略が功を奏したからだった。これまで海軍の艦隊が力をふるっていた太平洋は、音も立てず忍び寄ってくる水面下の小さなハンターたちに支配されるようになった。米国は、デーニッツから得た学びを自らの戦術として取り入れ、大日本帝国を打ち砕いたのだ。
オオカミが狩りで獲物を仕留められるのは、最強の動物だからではない。組織的に狩りをするからだ。それと同じ原則は、戦争にも当てはまる。野生の森であれ、海中であれ、単独行動する捕食者にはできることが限られる。しかし群れを形成すれば、戦場を一変させることができる。
自然は、すでに戦術を完成させていた。デーニッツがそれに気づき、米国海軍が手を加えた。歴史を変えたのは、シンプルだが圧倒的な真実を理解した人間だった。つまり、最も危険なハンターは群れで行動する、という真実なのだ。


