国内

2025.03.18 15:30

「農福連携は雇用率達成の代行業か?」障がい者雇用の新たな選択肢

TMES経営企画部長の奥山裕司は「これまで身体障がい者を中心に事務職で採用してきたが、制度変更で知的障がい者にも一定割合の職場を提供する必要が出てきた。ただ、配属の限界で、雇用を増やすのが難しくなった」と農園を借りた理由を話す。TMESでサステナビリティ推進室長を務める笠原浩子は「月に2、3回こちらに来て、メンバーに面談し、仕事や体調、コミュニケーションが取れているかなどを聞いています」。社内で野菜の配布会や試食会を開き、社員からのお礼のメールや配布会などの写真を農園スタッフに送る。社員研修を農園で行うなど社員同士の交流も図る。
 
厚生労働省によれば、農園やサテライトオフィスを企業に貸し出す事業者は23年11月時点で32社あり、利用企業は大企業を含めて1200社余り、働く障がい者は7300人を超す。厚労省の22年度の調査で、「障がい者の能力の開発・向上につながる好事例」や「単に雇用率達成のみを目的とした疑義のある事例」など光と影の両面が報告されている。
 
障がい者が本業とは直接関係のない農園などで働く仕組みに対し、「事実上の雇用代行だ」という指摘もある。和田は「本業と関係のない仕事をするのはどうなんだという意見がありますが、農業をやりたくて働いている方も多くいます。健常者と違ってハンディキャップがあって、それによって就職できない人が、やっと見つけた仕事や選択肢は尊重されるべきだと思います」と訴える。
 
貸農園の見学会や体験会には、大勢の親子が訪れる。貸農園の需要があるのは雇用率を達成したい企業と、親亡き後を見据えて、社会的・経済的な自立を目指す障がい者本人や親の願いがあるからだろう。22年度の就労継続支援B型事業所の平均工賃(賃金)は月額約1万7000円、A型事業所でも約8万3000円で、少なくとも都道府県の最低賃金は確保したいという希望をもつ就職希望者とその家族らは多そうだ。「自分の子どもが就職できなくて、お金を稼げない、自立できないというのは、本人も親も心配じゃないですか。仕事があって、そこに仲間がいれば、親亡き後も、励まし合いながら暮らしていけるんじゃないかと考えたとき、野菜づくりが最適だったんです。僕らの目標はまずひとりでも多くの障害者の雇用を実現することです」(和田)
 
障がい者の就労支援事業所の平均を大きく上回る賃金が支払われることで、広がってきた農園型ビジネス。そこで働く人が、やりがいや目標をどこまで見いだせるかが求められている。

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帝人ソレイユ◎マテリアル事業とヘルスケア事業を中心とする帝人グループの障がい者雇用を担う帝人の100%子会社で資本金5000万円。従業員は53人(うち障がい者39人)。農業部門と帝人本社などの事務補助や清掃業務を行う部門がある。

杉谷 剛◎1963年、兵庫県生まれ。東京新聞社会部で、主に調査報道を担当。利権や税の無駄使いをテーマに「破たん国家の内幕」や「道路を問う」「税を追う」などのキャンペーン報道を企画した。バンコク特派員や社会部長を歴任。現在、編集委員として「医療の値段」を連載中。

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文=杉谷 剛 写真=佐々木 康

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