知的・精神障がい者も。誇りをもって働ける場を
常用雇用者数が40人以上の全国の民間企業で働く障がい者は約67万7000人。半数以上は身体障がい者で、知的・精神障がい者の就労の場はまだ少ない。会社設立のきっかけは、取締役社長補佐の鈴木が極度のストレスから、うつ病を患ったことだった。「本社の企画畑が長く、新規事業などを担当し、かなりハードに働いていました。メンタルを患ったことで癒しを求めて、マンションの畑で家庭菜園をやるようになり、農業に興味が出て会社をやめようかなと。でも、子どもはまだ小さかったし、どうしようか悩んでいました」。

鈴木の同僚で現在は帝人ソレイユ農業事業部長の黒木忠と飲みに行ったときに、「農福連携」の話を聞いた。「農業と福祉はすごく相性がよく、国は農福連携に積極的に取り組んでいるということだった。会社が障がい者雇用の手段として農業を行えば、自分のやりたい農業ができるんだと気づきました」。
黒木には重度の知的障がいのある息子がいる。「日本では、重度の知的障がい者が働く場所は、ほぼゼロに近い」と、自分が面倒を見られなくなった後のことを心配していたという。鈴木の家族にも精神障がい者がいた。そこに、2人の子どもに障がいがある同僚の升岡圭治が加わり、3人で17年初めに、障がい者雇用を目的とする農業が主軸の特定子会社設立の企画書を作成し、会社に提案した。
「障がい者の親の二大心配事は、自分が死んだ後の子どもの収入、つまり仕事、そして住居。黒木、升岡の2人は、親亡き後も子どもたちが地域で生活できるようにという想いが強かった」と鈴木は語る。
帝人にとって農業は初めての試みで、当初は「経営リスクが高い」と慎重な意見が多かった。3人は多くの福祉事業所や特例子会社を視察するなど知見を集め、胡蝶蘭ハウスが建つ現在の土地を見つけるなどして交渉を続けた。熱意が通じ、2年後に承認された。
障がい者が農業分野での活躍を通じて、自信や生きがいをもって社会参画を実現する農福連携。障がい者の働く場の確保や賃金(工賃)の引き上げと、担い手不足や高齢化が進む農業分野の新たな働き手につながる取り組みとして、政府は19年から普及拡大を図り、20年度末の約4100件から24年度末は約6300件と大きく増加。約3300件がA型・B型の障がい者就労支援施設、約3000件が団体・個人の農業経営体や農業協同組合だ。
帝人ソレイユのオーガニック野菜は2ヘクタールの借りた農地で栽培する。宅配野菜ボックス(Mサイズ税込み3250円)を毎月約100箱契約者に送る。8割が帝人の関係者だという。1箱に9~10種類入るので、3人の障がい者で常に10種類、1年に約100種類の野菜を育てる。農場入り口の無人直売所は地域住民に好評だ。食用バラは花びらを年間約30kg、レストランやホテルなどに出荷している。「後ろの彼を見てください」。鈴木に促され、体を揺すりながら胡蝶蘭の苗に水をやり続ける男性を見た。「彼は自閉症で、重度の知的障がいがありますが、楽しいときに体を揺する癖があります。彼のような重度障がい者がいると、障がい者5人に1人くらい支援員やジョブコーチがつくことが多いのですが、ここでは支援員はいません。自律的な働き方ができるのも仕事の楽しさや誇りにつながるでしょう」。


