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2025.03.18 15:30

「農福連携は雇用率達成の代行業か?」障がい者雇用の新たな選択肢

障がいのある人の就労問題を農業で解決しようと「農福連携」に取り組む企業が年々増え続けている。その最前線から見えた課題とは。


主力は胡蝶蘭 年間売り上げは5年で10倍超

東京駅からJR常磐線直通で約1時間。千葉県我孫子市のJR新木駅から歩いて数分の田園地帯に、目指す農園はあった。帝人グループの特例子会社「帝人ソレイユ」(東京)が運営する「ポレポレファーム」だ。特例子会社とは、企業に障がい者雇用を促すための制度で、そこで雇う障がい者は親会社やグループ会社の法定の障がい者雇用率(民間2.5%、従業員40人に1人)に算入できる。

明るい大型のハウスに入ると、真っ白な数え切れないほどの胡蝶蘭の花が目に飛び込んできた。台湾などから苗を仕入れ、およそ半年かけて育て上げ、包装から贈答先への発送まで手がける。帝人CEOや大手銀行の頭取名などを冠した注文など、販路は親会社のネットワークを活用して拡大。これまで200社余りから注文があった。

「ここでは農地を借りて、胡蝶蘭、オーガニック野菜、エディブル・ローズ(食べられるバラ)を生産しています。年間売り上げは数千万円で8割が胡蝶蘭です」。取締役社長補佐の鈴木崇之はそう説明する。胡蝶蘭は3本立てと5本立てがあり、2万9700円~6万7100円(税込み)。会社の設立は2019年で、売り上げは数百万円だったが、5年で10倍以上に伸ばし、一歩ずつ黒字化に近づいている。

「特定子会社をつくるにあたり、高収益事業を探していたとき、週末に通っていた農業学校のゼミの先生から『こんな取り組みがあるよ』と教えてもらったのが、福祉事業所がやっていた胡蝶蘭だったんです。そこに見学に行って、商品化の難易度は高いけど、これはいいなと」

障がい者雇用促進法で、従業員が40人以上の企業は従業員の一定割合以上の障がい者を雇用する義務がある。達成できなければ、不足1人につき原則月5万円を国に納付するが、半数余りの企業が法定の雇用率に届いていない。特例子会社は年々増え、24年6月時点で、全国に614社を数える。雇用されている障がい者は5万290人に上る。

ポレポレファームでは21歳から57歳までの知的障がい者と発達・精神障がい者の計17人が働く。花の「仕立て」(整形)をしていた胡蝶蘭チームの最高技術者の廉谷貞治(46)は4年前に入社した。強い不安やこだわりによって日常生活に支障が出る強迫性障がいがある。ただ、鏡を見ながら胡蝶蘭を整形する仕立てには、熟練の技と、小さな傷も見逃さない細心さが必要なため、かえって気づく力とこだわりの強い人が能力を発揮しやすい。

「これまで正社員の仕事はしたことがなく、スーパーやコンビニのアルバイト、電気スタンドの製造会社などで働いていました。ハローワークでここを知り、職場体験を経て入社しました。胡蝶蘭という高価なものを自分がつくり、農家と同じ土俵で勝負できていると思うと、仕事にやりがいを感じます」

仕事は1時間の休憩を挟んで1日7時間半、週休2日で、月給は約15万円。直前にいた就労移行支援事業所の工賃より約10万円増えたこともモチベーションにつながっている。

24年1月からファームで働く北條優菜(22)は北海道江別市から引っ越してきた。担当するのは一輪咲いたころにアーチ状に成形する「仮曲げ」など。「私は知的障がいがあります。初めての仕事で、わからないことばかりですけど、それができるようになることが楽しいです。不安はありません」

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文=杉谷 剛 写真=佐々木 康

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