また勤続年数ごとの比較では「退職代行利用者」は約6割が入社後半年以内に退職を決定。「セルフ退職ムリサポ!利用者」は1年以上勤務した後に退職を決めた人が半数以上という結果になった。勤続年数が長いほど「自分で退職を伝えたい」という思いが強くなる傾向があるようだ。長年働いてきた職場では、人間関係や責任感も影響し、第三者を介さずに退職しようとするケースが多いと推測される。

企業の形ばかりの対策に問題あり
今回の調査からは、退職を引き止められたり、労働環境の問題を抱えているにも関わらず、退職代行ではなく自力で退職を試みる人々の特徴は「女性が多い」「30代以上が中心」「勤続年数が1年以上の人が多い」という結果になった。
また、退職代行を利用するケースでは、暴力やハラスメントといった深刻な問題を抱えている人が多く、自己解決が難しい職場環境に直面していることがわかった。
しかし、令和になってもセクハラ・パワハラがこれほど多いのは驚きだ。法律も整備され、企業のコンプライアンス意識も高まっているはずなのに、実態としては根深い問題が残っている。この矛盾の理由をいくつか考えてみた。
・コンプライアンスの「形骸化」
企業の多くはハラスメント防止の研修を実施し、相談窓口を設置しているが、実際には機能していないケースが多いのではないか。特に中小企業では「とりあえずマニュアルを作る」だけで、実態に即した運用がされていないこともある。つまり「形ばかりの対策」となっているのではないだろうか。
・被害者の泣き寝入り
特に古い体質の企業では、上司の権限が強すぎて「問題提起すると自分が不利益を被る」と思う社員が多い。その結果、被害者が泣き寝入りしハラスメントが横行しているのかもしれない。
・世代間で異なる「常識」
上の世代が「昔はこれが普通だった」と考え、ハラスメントの自覚がないケースも多い。今回の調査結果でも、50代男性の退職理由に「社長から嫌がらせを受けた」とあるが、これは権力を持つ人の意識が変わっていないことを示している。
・告発のハードルの高さ
日本社会は「和を乱さない」文化が強く、ハラスメントの被害を公にすることに心理的なハードルがある。「被害を訴えた側が孤立する」という恐れが、沈黙を生んでしまうのではないか。
・労働市場の流動性の低さ
海外に比べ、日本では転職が「当たり前」とまではなっていないため、「辞めても次が見つからないかもしれない」という不安が強い。そのため、多少のハラスメントがあっても我慢せざるを得ない状況の人が多いのかもしれない。
このように、制度はあっても実際には機能していない部分が多く、特に「会社側が本気で変えようとしていない」ことが大きな要因になっている。問題が可視化されることによって、ようやく対策が進むが、それまでは「なかったこと」にされがちなのが現状だ。
企業にとって、このデータは労働環境改善の重要な指針となるだろう。退職代行の利用増加は、単なる「退職を楽にする手段」ではなく、職場の深刻な問題の表れである。経営層は単に離職率の数値だけを見るのではなく、退職の背景にある問題に目を向けるべきだ。
プレスリリース
https://admin.forbesjapan.com/admin/article/edit/77730