テクノロジー

2025.03.15 14:15

じわる人気「百千鳥」フォント、ヒントは昭和の描き文字文化

アドビ Adobe Fonts & Type プリンシパルデザイナー 西塚涼子

「その名残は今も残っていて、鉄道や、標識など街を歩くと多くを目にします。ただ、時代とともに少しずつ新しいフォントに変わってきてはいますが……」

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都内百貨店の駐車場出口にあるサイン。西塚は、今も残る手書きフォントを見つけては資料として残し、デザインに生かしている。
都内百貨店の駐車場出口にあるサイン。西塚は、今も残る手書きフォントを見つけては資料として残し、デザインに生かしている。

スペースに入れ込むためでもあった「変形」は読みやすさにつながり、多用され、日本の街角で目にする看板やポスターにはさまざまな書体が用いられてきた。しかし、時代の変化とともに、それらの表現は標準化され、フォントの選択肢が限られるようになった。

「今、メトロの表示が新しくなり『新ゴ』(フォント)に置き換えられたりしています。昔は『4550』という書体が使われていたんですよ! これは文字の天地が45に対して幅が50ポイントで『扁平』なんです。その扁平が行間を生んで視認性が高まるとデザイナーは考えていて、とても味わいがあり、それで───」

少し前の時代のフォントの有用性について語る西塚の言葉をさえぎることは不可能なほど熱い。その西塚が手書きと扁平のフォントにヒントを得て生み出したのが、今回の百千鳥だ。西塚は古い書籍や、作家の手書き文字まで、数えきれないほどの手描き文字を参考にしてきた。百千鳥は日本のデザイン文化に根ざしたフォントなのだ。

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リリースまでに、実に「15年」を要した

通常の日本語フォントは「全角」という正方形の枠の中に収められるが、『百千鳥』は扁平や縦長といったバリエーションを持ち、自在に変形できる特性を持つ。これは、「バリアブルフォント」というテクノロジーが可能にする。バリアブルフォントは、フォントの見た目をシームレスに調整できる画期的な技術だ。

「フォントの形が変わることで、1つの書体でありながら複数の表現が可能になります。これまでのフォントは細い・太い・斜体といったバリエーションしかありませんでしたが、『百千鳥』は可変することで扱いの自由度を大きく拡張しました」

スペースを有効活用したかつての戦後のデザイナー、読みやすさのために扁平にした文字、それらから派生した百千鳥にとっては、文字の形状が変えられる技術は望まれた重要な要素だ。しかし───

「実装に大きな壁がありました。従来のアプリケーション(Adobe Illustrator等)は、扁平なフォントの組版(文字を文章として整頓する)をうまく処理できなかったんです。それは日本語特有のもので、全角なら正方形なので問題ないのですが、扁平だと縦書きの際に文字の配置が崩れるという問題がありました」

これを解決するために、アドビのアプリケーションチームと連携し、組版に適したバリアブルフォントの処理方法を開発した。その結果、百千鳥は縦書き・横書きの両方に適応し、自在に変形しながらも視認性を損なわない美しいフォントとして完成した。

また、文字を動的に動かすために4倍もの文字を制作しなければならないなど、超えるハードルはあまりに多かった。「昔のエッセンスを取り入れながら、現代にどうやってそのレトロの雰囲気を持ちつつユーザーが使いやすいかいうのを考えながら作りました」という西塚の思いと、技術課題のクリア、ここまでに15年必要だった。

次ページ > すべての出発点、美しい手描きの「百千鳥」。

文=坂元こうじ 写真=西川節子(人物)

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