眠った遺伝子を目覚めさせるスイッチ
今回の研究では、「陸奥」「弘大みさき」を含む複数の青りんご品種を対象に、果実袋の影響を比較した。その結果、「陸奥」「弘大みさき」ほどではないが、「王林」「金星」でも赤みが生じることが確認された。一方で、「ゴールデンデリシャス」や「とき」などは、わずかに色づくものの、鮮やかな色づきは確認できなかった。

さらに、研究チームは、本来は発現しないはずの遺伝子が、果実袋処理を施すことで活性化することも明らかにした。赤りんごとなる要素「MdMYB1-1」を持っていなくても、果実袋によりDNAのメチル化(※)が低下することで、「MdMYB1-2」や「MdMYB1-3」遺伝子が目覚めて赤く色づくことを「陸奥」で発見した。つまり青りんごにも本来は赤くなる仕組みが備わっているということだ。
(※DNAのメチル化:ゲノムDNAを構成する4つの塩基のうち、シトシンがメチル化されるとDNAがうまく読み取れず、一時的に遺伝子の発現が抑制される)
この発見は、遺伝子組換え技術や化学薬品に頼らず、品種改良に新たな道を開く可能性を示した。今後の課題は、このメカニズムが「陸奥」以外の品種にも適用可能かどうかを検証することだ。これが解明されれば、「青りんご=赤くならない」という従来の常識を超えた、「赤い青りんご」のような新たな品種が誕生するかもしれない。
この研究が示すのは、眠っていると考えられていた遺伝子が、適切な条件下で機能する可能性があるということだ。これは農業分野に限らず、遺伝子研究全般においても重要な示唆を与えている。「眠っていた遺伝子を起こす」ことで、果実の色だけでなく、風味や栄養価の向上にも応用できる日が来るのかもしれない。
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