英国の老舗資産運用会社ベイリー・ギフォード。1908年の創業以来、一貫して「成長株」への長期投資を行ってきた。10年、20年先を見据えた長期投資を実現する投資哲学について、Forbes JAPAN Web編集長の谷本有香が迫る。
英国における金融の聖地、スコットランド・エディンバラに本社を構える1908年創業の資産運用会社「ベイリー・ギフォード」。世界各国の大手年金基金からの運用実績を有し、アマゾン、エヌビディアといった企業に黎明期から投資を実行してきた実績もある。
今回はベイリー・ギフォード在籍歴21年のパートナー、スチュアート・ダンバー(写真。以下、ダンバー)に、同社のアクティブ運用を軸とする投資哲学の神髄について、Forbes JAPAN Web編集長 谷本有香(以下、谷本)が聞いた。
市場を見るよりも企業を見るベイリー・ギフォードの手法
谷本:英国発祥で100年以上の歴史をもつベイリー・ギフォードは、どのようなプレゼンスを発揮してきたのでしょうか。
ダンバー:フォード社から大衆車がリリースされ、ゴムの需要が加速した20世紀前半に、私たちは創業しました。1980年代中盤には、機関投資家分野でビジネスが伸長し、現状世界トップ20の年金基金(※1)のうち9基金の運用を受託しています。(2024年12月末時点)
その理由は私たちの行っている手法がシンプルだからと言えます。最先端の金融工学を駆使するのではなく、地道に将来性のある企業を探し出し、長期で投資していく。シンプルですが難しいことを行ってきた自負があります。
また、私たちは上場せず、58人のパートナーが共同経営しているので、四半期の業績達成率など、外部から短期目線の圧力を受けずに顧客に腰を据えて向き合い運用できています。現在は個人投資家向け資産運用ビジネスにも本格参入し、英国におけるアクティブファンド運用残高シェアは約10%に及びます。(※2)
同業他社との違いは、長期投資。株式市場の動向よりも、企業にコミットして投資を展開しているところです。多くの資産運用会社は、18〜24カ月先程度の短期の市場動向で投資を判断することが多いと思いますが、私たちはそうした株式市場の変化よりも、各企業のファンダメンタルズ(経済状態や業績)を重視して長期的に投資しているところが特徴です。
インデックス運用とは異なるベストアイデアを集めたアクティブ運用
谷本:長期投資なら、インデックス運用のほうがリターンは高いと考える投資家の声を聞くこともありますが、そのなかでひたすら企業のポテンシャルを注視するのは、どのような理由からでしょうか。
ダンバー:グローバルでも、低コストで多数の銘柄にアクセスできるインデックス運用が選ばれる風潮があると感じています。一方、私たちは長期的に株価は利益成長に沿って動くと信じており、成長性に確信がもてる企業にのみ投資しています。その結果として、ポートフォリオの構成はインデックス運用と比べて大きく異なる傾向があります。
実際の学術研究でも、アクティブシェアが高く、長期投資を行っているアクティブ運用は、インデックス運用よりも成績が高いと主張する報告もあります。(※3)
それにアクティブ運用を標榜していても、インデックス運用の構成と大きく変わらず、ターンオーバー(銘柄の入れ替え割合)が高い運用になってしまっていれば、単に売買手数料の負担が増えて、最終的に投資家の皆様にお届けする投資リターンは低くなると考えています。
我々は、株式市場にはリターンの非対称性があり、一部の企業が株式市場全体のリターンをけん引しているという学術研究(※4)も参考に、インデックス運用とは異なるベストアイデアを集めたポートフォリオを構成し、長期投資を行うことで、インデックス運用よりも高いリターンを創出できると信じています。一方で、アクティブ運用と銘打っておきながらポートフォリオの中身はインデックス運用と変わらない運用会社が少なくないと私たちは感じています。
それらの会社と区別するために、私たち自身のことを「アクチュアル・インベスター(真の投資家)」と呼ぶブランディングキャンペーンを世界中で展開しています。私たちは、株式市場ではなく、企業に焦点を合わせた真のアクティブ運用を愚直に続けます。私たちの哲学に共感いただけたらうれしいです。

アマゾン、エヌビディアの成功事例 ビッグ・ビジョンへの共鳴
谷本:現在、大手テック企業7銘柄「マグニフィセント・セブン」(アルファベット、アップル、メタ、アマゾン、マイクロソフト、エヌビディア、テスラ)にリターンが集中していますが、この状況は続くとお考えでしょうか。
ダンバー:私たちは数年後にはそのラインナップが一変すると考えています。そのタイミングでは、現在右肩上がりのインデックス運用に陰りが出るでしょう。その時こそ、アクティブ運用の真価が問われるときだと考えています。インデックスの構成は後ろ向きです。上位の組み入れ企業は過去の勝者であり、今後も勝者であり続けるかは誰にもわかりません。私たちは、前向きであり、未来を担う企業に常に目を向けています。
谷本:投資価値のある企業はどのように判断されていますか。
ダンバー:金融市場は、企業の富の創出を促すのが役目です。富を創出できるのは、私たちや機関投資家、個人投資家ではなく、企業の経営陣だけです。世界には、優秀な経営者がたくさんいます。彼らに真摯に向き合い、5〜10年先のビジョンや戦略を深く理解する強固なパートナーシップを築き、長期的な視点で寄り添えるのが、私たちの強みです。
例えば、黎明期にまったく利益が出ていなかったアマゾンは、株式市場では不人気と言える状況でした。しかし私たちは、ジェフ・ベゾス氏の顧客中心主義に深く共鳴し、長期投資家として支え続けました。エヌビディアに投資したのは、2016年。ゲーム向けチップのメーカーとして知られていたころですが、私たちはそのチップがAIの機械学習に使われれば10年後の26年には5,000億ドルの時価総額になると予想しました。
私たちの予想は良いかたちで裏切られ、現在の時価総額は3兆ドルを上回っています。(2025年2月時点)
目先の業績にとらわれずに、大局的な視点で長期投資をしたことが功を奏して、いくつかの戦略では90倍以上のリターンを享受できました。

長期的な視野で未来へ貢献する投資行動の素晴らしさを日本へ
谷本:最後に日本の投資家にメッセージをお願いします。
ダンバー:これまでも、これからも世界経済は発展し続けていくと信じています。私たちの運用戦略を日本の投資家に提供している三菱UFJアセットマネジメントと共に、長期的な視野に立ち、世界をより良く変革していく企業を、私たちと一緒に投資を通じて応援していく価値を、日本の投資家の方々にお伝えしていきたいと思っています。そして、短期ではなく長期的な視点で投資を行う文化がさらに醸成されることを願っています。
ベイリー・ギフォード
※三菱UFJアセットマネジメントHPに遷移します
スチュアート・ダンバー◎1993年ストラスクライド大学卒業。2003年にベイリー・ギフォードに入社。パートナーとして営業、マーケティング、商品開発を統括。
※ 投資における元本や収益は保証されたものではありません。
※1 P&I/Thinking Ahead Institute (Willis Towers Watson) Global 300 Report, 2024年9月
※2 2024年9月時点。Monthly company rankings | The Investment Association
※3 Active Share and Mutual Fund Performance. Antti Petajisto, 2013.
Patient Capital Outperformance: The Investment Skill of High Active Share Managers Who Trade Infrequently. M. Cremers, A. Pareek, 2014.
※4 Bessembinder, Hendrik (Hank) and Chen, Te-Feng and Choi, Goeun and Wei, Kuo-Chiang (John), Do Global Stocks Outperform US Treasury Bills? (July 5, 2019).