「文明は消費されるが、文化は流行で簡単に消費されるものではない」
こんな意味深な言葉を聞く機会があった。
*
「5歳の時に家族でブラジルのアマゾンに移住しました」
ビジネスピッチコンテストは数多くあれど、「ジャングル育ち」という変わったスピーチを聞くことはめったにない。大分県が主催する「OITAゼロイチ」決勝大会でのことだ。
アマゾンで育ったという吉野朝(あさひ)社長は、1987年生まれ。別府市でスキンケア商品を製造販売する「サポートジャングルクラブ」を運営している。
以下は、審査員だった私が整理した内容だ。

(1)アマゾンの先住民が使う樹木の液体を原料にした「コパイバマリマリ」というスキンケア商品を製造販売しているという(一体、それを日本で誰が買うのか?)。
(2)スキンケア市場そのものは毎年大きく成長している。日本製だけでなく、韓国製やオーガニックコスメも人気が高い。この激戦市場にどうやって参戦するのか?
(3)アマゾンの素材といえば、南米ハーブの代表格「マカ」が100億円市場に成長し、他にも「太陽のマテ茶」やエナジー系ドリンクの原料「アサイー」など大化けする例はある。ちなみに、大分県も1980年代に当時の平松守彦知事が主導した「一村一品運動」で、「吉四六」や「いいちこ」などの大分麦焼酎ブームを起こすなど、ブランドづくりの実績がある。
(4)家族でジャングルに移住した話ですぐに思い出したのは、ハリソン・フォード主演の『モスキート・コースト』(1986年公開)という映画だった。文明社会に背を向ける発明家の父が、妻と4人の子供を連れて、中南米の奥深くに移住する。前半はハリソン・フォードが演じる父親を中心に、ユーモアあふれる話が展開するも、次第に暗転。長男役のリバー・フェニックスの目を通して、狂っていく父親と翻弄される家族の姿が描かれていく。中小企業の事業承継劇でも「父親に振り回される家族」はよく見受けられる。地球の裏側の、しかもジャングルに移住と聞けば、その後の顛末がどうしても気になる。
大分県が主催するビジネスコンテストで、結局、吉野さんは「県知事賞」の受賞には至らず、Forbes JAPAN編集長賞となった。しかし、吉野さんとのその後のお付き合いから、ピッチでは知り得なかった「ブランドづくりとは何か」を教えられることになった。