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北米

2025.03.11 08:00

AIモデルの訓練で時給4500円、米国の「大卒副業ワーカー」が直面する現実

Shutterstock.com

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人工知能(AI)モデルがその複雑さを増すにつれ、それらのモデルのトレーニング作業に従事する人間の作業も複雑なものになっている。そんな中、「データのラベルづけ」という単純作業を請け負うことで評価額が140億ドル(約2兆2000億円)の巨大企業へと急成長を遂げたScale AI(スケールAI)は、米国内における労働力の確保に注力している。

ルイジアナ州コヴィントンで水道関連の会社に務めるスコット・オニールは、副業としてAIモデルのトレーニングを請け負っている。Scale AIの契約ワーカーである彼は、ChatGPTのようなAIが生成する回答をオンラインで評価するタスクを、週に数時間こなしている。

彼が請け負う仕事の内容は、AIの回答が事実であることを確認して、人間味のある表現にすることもあれば、2つの回答を比較してより優れたものを選ぶこともある。また、彼自身がAIの回答を書き直す場合もある。大学でコンピュータサイエンスの学位を取得したオニールは、この仕事で週に300ドル(約4万5000円)から1000ドル(約15万円)を稼いでいるという。

彼は、Scale AIが所有するOutlier(アウトライアー)と呼ばれるプラットフォームに登録する何十万人ものクリックワーカーの1人だ。Outlierではフリーランサーが有償でタスクをこなし、グーグルやメタ、OpenAIなどの企業顧客向けに生成AIモデルの訓練を行っている。

Scale AIは、ChatGPTが世界的な注目を集めた翌年の2023年にOutlierを立ち上げた。グーグルのGemini(ジェミニ)やメタのLlama(ラマ)のようなAIモデルが、ユーザーからのプロンプト(指示)に対応した回答を生成する際、その裏側では、膨大な数のクリックワーカーたちがAIモデルの「微調整」を行っている。彼らは、回答の評価や不適切なコンテンツの排除、さまざまな方言の翻訳などの作業に従事している。

しかし、AIの回答をより洗練されたものにするためには、高度なスキルを持つ人材が必要になっている。例えば、アート分野における最高位の学位であるMFA(美術学修士号)を持つ人が、AIに新たな文章表現を教えたり、数学のPhD(博士号)を持つ人がAIが数学の定理を正しく適用しているかを確認したり、フェイスブックのエンジニアと同等レベルのコードを学ばせるといった作業が求められる。

こうしたタスクをこなすために、Scale AIはこれまで以上に高学歴の人材を活用している。そのため、同社はクリックワーカーの拠点として米国に注力するようになり、海外への業務委託を減らしている。

AIの訓練にも「米国第一主義」を

この米国重視の方針は、Scale AIのCEOであるアレクサンダー・ワンの「アメリカ・ファースト(米国第一主義)」のAI戦略と一致している。同社が米国人の雇用に力を入れる理由は、単に国内における雇用の創出だけではない。中国などの国々がAI分野の競争力を高める中、「私たちは、これらのモデルに米国人の声を反映させることを重視しています」と、Outlierの責任者であるシャオテ・ジュはフォーブスに語った。

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編集=上田裕資

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