欧州

2025.03.07 14:15

ドイツ連邦議会選挙で明らかになった未だ崩せぬ東西の壁

ドイツ・ベルリン、1990年3月〜1989年のドイツ東西のベルリン壁の崩壊後(DacologyPhoto / Shutterstock.com)

世界各国の経済や産業に関する統計データを提供するCEICによれば、両地域の1人あたり国内総生産(GDP)は2023年の時点で旧西側の5万800ユーロに対して、旧東側は4万309ユーロ。

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旧東ドイツ地域の失業率は、2005年の18.7パーセントからは大幅に低下し、2024年1月時点では8パーセントだが、それでも旧西ドイツ地域の失業率を上回り続ける。

統一後、旧東ドイツは計画経済から市場経済へ移行、国営企業が次々と民営化された。その過程で、生産性や効率の面で劣る旧東ドイツ企業はリストラを余儀なくされた。それにもかかわらず、対外的な競争力に乏しく、倒産が急増した。

フランスの新聞「レ・ゼコー」によると、民営化を推進しようと旧東ドイツに1990年設立された信託公社は、6000社を売却した一方で4000社を閉鎖。約250万人が職を失い、旧東ドイツから西側諸国へ150万人の若者が職を求めて流出した。旧東ドイツ地域には大企業がほとんど存在せず、いまも両地域の格差は大きい。

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米国の新聞「ニューヨーク・タイムズ」の電子版は「ドイツ人に残る東と西という別々の世界に住んでいる感覚が、彼らの投票習慣の根強い特徴になっている」と指摘する。旧西ドイツの人々に抱く旧東ドイツの住民の反感がAfDにとっては追い風となった面がありそうだ。

昨年の12月には旧東ドイツの都市、マグデブルクのクリスマスマーケットにクルマが突入し、多くの死傷者が出た。容疑者はサウジアラビア出身の医師の男性だった。「職を奪われた」などと不満を抱える人々の反移民感情をさらに掻き立てたのは想像に難くない。

 “ベルリンの壁再建”のジョークも

今回の選挙で「サプライズ」と評されているのが、左派政党の「ディ・リンケ(左翼党)」の人気である。1月はじめの世論調査では苦戦が予想されていたが、フタを開けてみれば8.8パーセントの得票率で議席獲得に必要な5パーセントを上回った。

ディ・リンケは旧東ドイツを支配していた社会主義統一党の流れをくむ政党だ。ディ・リンケもAfDと同様、旧東ドイツ地域での支持が高かった。

しかも、AfDとディ・リンケ双方が10代から30代など、比較的、若年層の票を多く獲得している。「旧東ドイツの時代は悪いことばかりでなかった」などと当時を懐かしむ郷愁である「オスタルギー」とは異なる感情が投票行動に反映されたのだろう。

2000年代初頭、ドイツにはこんなジョークがあったという。

「ベルリンの壁が再建されるとしたら、オッシー(旧東ドイツ地域の住民)とウェッシー(旧西ドイツ地域の住民)のどちらがそれに着手するのだろうか」

現在のオラフ・ショルツ首相の内閣閣僚16人のうち、旧東ドイツ出身者は2人にとどまる。旧東ドイツ出身でトップの座に就いたアンゲラ・メルケル前首相は特異の存在といえる。

CDU・CSUが進める連立政権の枠組みだけでなく、閣僚の人事の行方が東西の「壁」を取り崩せるかどうかの鍵になりそうだ。

連載 : 足で稼ぐ大学教員が読む経済
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文=松崎泰弘

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