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映画

2025.03.10 15:15

「ほぼ100%ボブ・ディラン」な主演俳優に注目│映画「名もなき者」

映画「名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN」から ©2025 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.

この原作は、1965年にニューポート・フォーク・フェスティバルで、ディランがエレキギターを持って「ライク・ア・ローリング・ストーン」を歌い、会場の聴衆からブーイングを浴びた有名な「事件」を扱っており、いわば彼の転機となった一夜をドキュメントしたものだ。

2018年には、ローゼンと監督のジェームズ・マンゴールド、それに主演のティモシー・シャラメと映画会社のサーチライト・ピクチャーズで「名もなき者」の製作チームが結成される。

マンゴールド監督は、脚本執筆と製作準備段階でボブ・ディラン本人と直接話す機会を得たということを明かしている。その段階でどのような作品にするかについても話があったことは想像に難くない。ことさら劇的な展開を避け、主人公の心情吐露が少ないのも、そのような本人の意向があったからかもしれない。

「名もなき者」では、人物のほとんどが実名で登場するが、唯一、役名を与えられている女性がいる。それは作品のなかではディランと恋に落ちるシルヴィだ。多少、ディランのことを知る人間なら、この作品を観たときに違和感を覚える部分かもしれない。

シルヴィは、実際にはスージー・ロトロという女性で、ディランの2番目のアルバム「フリーホイーリン・ボブ・ディラン」(1963年発表)のジャケットに彼と仲良く腕を組みながら写っている。当時、ディランとは恋人関係にあった女性だ。

ロトロ自身は2011年に亡くなっているが、ディランが脚本を読んだときのただ1つの要求は、彼女の名前を変えることだったという。初期のディランの思索にも大きな影響を与えた女性だけに、彼にとっては映画という虚構のなかで語られることをよしとしない重要な存在だったことも窺える。

ちなみに、原題でもある「A COMPLETE UNKNOWN」は、ディランの最大のヒット曲であり、ロック史のなかでも名曲に数えられる「ライク・ア・ローリング・ストーン」の歌詞に由来するもので、「まったく知らない」とか「完全に未知」というような意味だ。

原題とはややニュアンスは異なるものの、映画の内容とも考え合わせると「名もなき者」という邦題も、この作品には悪くないタイトルかもしれない。少々こそばゆい言い方だが「未完の青春映画」でもあり、ボブ・ディランを知る人でも知らない人でも楽しめる作品となっている。

連載 : シネマ未来鏡
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文=稲垣伸寿

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