食道がんの手術前に行われる抗がん剤治療では口内炎ができるなどして食事がうまく摂れず栄養状態が悪化するため、予後に大きく影響する。だから、ごはんをよく噛んでしっかり食べられるよう歯のお手入れをしっかりしておくべきだと普通なら考えるが、なんと、調査によって歯がいい人のほうが栄養状態が悪くなることがわかった。釈然としない話だが、そこには納得の理由がある。
岡山大学病院歯科・予防歯科部門の山中玲子助教らによる研究グループは、食道がんの手術前の抗がん剤治療中に予後推定栄養指数(PNI)が大きく下がることを突き止めたが、とくに「奥歯の噛み合わせの数が多い患者」に著しい低下が認められた。これまでも、患者の術前のPNIと奥歯の噛み合わせ本数の相関が確認されていて、噛み合わせ本数が少ない患者は、術前抗がん剤治療で栄養状態が悪化すると予測されていた。しかし今回の調査ではその真逆の結果が示され、山中助教も「驚いた」という。
歯を大切にしてきた人にはショックな話だが、じつは、歯の悪い人はそもそも口腔内や栄養の状態が悪い。そのため治療にあたっては、早い時期から手術前後の体の状態を管理する周術期管理チームが介入してサポートしているのだ。反対に、歯のいい人は栄養状態がいいため、周術期管理チームの介入は遅くなり問題が生じやすい。なるほど当然の成り行きだ。
その後の研究では、多職種チームが早期介入することで、抗がん剤治療中の口内炎が軽症化して、術後の体重減少が抑えられたことが確認されている。これを受けて岡山大学病院では、抗がん剤治療が始まる前から周術期管理チームが介入するようになったということだ。
つまりこれは、歯が悪い人のほうが長生きするという話ではなく、管理チームの早期介入があれば、歯のいい人はなおさら予後がよくなるということで、やっぱり歯のお手入れはしっかりしておこう。
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