ベロブキナ洞窟の内部にいると、完全に地球を離れた気分になる。しかしこのような環境下でも、生命は存在している。
あらゆる生物が、地下深くの環境に独自に適応している
この環境で生き残れるのは、特別に非凡な生き物に限られる。つまり、完全な暗闇と極寒、栄養の乏しい環境に耐えるように進化した種だけだ。
ベロブキナのような深い洞窟に生きる奇妙な生物のなかには、目のないトビムシの仲間(学名:Plutomurus ortobalaganensis[プルトムルス・オルトバラガネンシス])がいる。この種は、ベロブキナと同地域にあるクルベラ洞窟の1980m地点という、驚異的な深さで発見された。記録にあるなかで、最も深い場所に生息する陸生動物だ。この生物には目がないが、長い触角があり、微小な菌類を餌として生きている。
そのほか、ベロブキナ洞窟には、次のような生物が生息している。
・Xiphocaridinella demidovi(クシフォカルディネラ・デミドウィ)
最深部にある地底湖で発見されたエビの仲間。日光や植物なしで生きられ、水が運んでくる有機物のみを餌としている。
・Duvalius abyssimus(デュワリウス・アビシムス)
色素と視力を持たない甲虫の仲間で、触覚と嗅覚のみに頼って移動する。
・Heterocaucaseuma deprofundum(ヘテロカウカシューマ・デプロフンドゥム)
記録されているなかで、最も深い場所に生息するヤスデの仲間。
これらの生物は、地表からほぼ完全に隔絶された生態系に属している。一部の研究者は、これら生物の研究から、火星や、氷で覆われた木星衛星に、生命が存在する可能性についてのヒントが得られるかもしれないと考えている。
ベロブキナ洞窟は、地質学上の驚異というだけではない。地球上で最後の、真の未開拓域の1つといえる。そこは闇が支配し、時間が歪み、生物がありえない適応を遂げている場所だ。
足下に広がる異世界であるベロブキナ洞窟は、その深部へと踏み込む勇気がある人々にとって、人間の限界を試す過酷な試練の場だ。そしてこの地球には、まだほとんど知られていない場所が残されていることを教えてくれる。


