サイエンス

2025.03.06 18:00

世界最深級のベロブキナ洞窟、その深部に広がる「別の惑星」のような世界と生息する生物

Sava Senemty / Shutterstock

最も深い地点に設営されたキャンプで休んでいると、何の前触れもなく、洞窟内に突然洪水が押し寄せてきた。最初は遠くで聞こえていたとどろきが、地震のような揺れに変わったかと思うと、白く泡立つ奔流が、彼らに向かって押し寄せてきたのだ。数分後には、さっきまでいたキャンプが、激しい洪水に飲み込まれていた。

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わずか数秒のあいだに、1つでも対応を誤れば確実に死ぬことになると悟った瞬間のことを、ショーンは次のように振り返る。「私はただ思った。大変だ。すぐにここを離れないと。一刻の猶予もない。グズグズしていたら全員死ぬ、と」

チームは急いで逃げ出した。まるで破城槌(城門や城壁を破壊する攻城兵器)のように体を叩く流水に逆らいながら、ロープを伝って上へ登った。20時間近く続いた洪水は、脱出ルートを断ち切り、チームを閉所恐怖症的な悪夢に閉じ込めた。

ようやく水が引いたとき、洞窟の天井に、自分たちの荷物の一部が引っかかっているのを見つけた。どれだけ水が上がってきたかを示す痕跡だ。

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ほんの少しでもためらっていたら、誰も助からなかっただろう。

この洞窟を探検するのは、別の惑星に足を踏み入れるようなもの

溺れる危険がなかったとしても、ベロブキナ洞窟は、あらゆる面で異質な場所だ。

地上の光が届かない深みに降りていくと、そこは、けっして目が慣れることのない、完全な闇の世界だ。薄明かりも、ほんのかすかな光さえない。ただ、どこまでも続く虚空があるのみ。脳は、視覚的な情報を求めて、ありもしない光や形が見えるような錯覚を起こす。

洞窟で最も深いとされる垂直落下の穴は、145mという途方もない深さに達し、まさに奈落の底だ。まっすぐに降りていくと、底なしの虚空へ落ちていくように感じられる。奈落への落下を防ぐものは、細いロープ1本だけだ。

さらにそこへ、気圧と寒さが襲う。気温は氷点下に近く(摂氏4度前後)、気圧は、地表より10%高い。湿度も過酷で、あらゆるものが常に湿った状態にあるため、低体温症のリスクがついて回る。

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翻訳=高橋朋子/ガリレオ

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