2024年5月、みずほフィナンシャルグループ(FG)をはじめとするグループ7社が「インパクトビジネスの羅針盤」を公表した。大手金融グループによる「インパクト」を前面に押し出した発信は国内外から大きな注目を集めた。同羅針盤は、開業から150年あまりの、これまでの〈みずほ〉の社会価値創造の取り組みを、インパクトを軸に整理するとともに、これからの取り組みにインパクトビジネスを据える行動指針になる。インパクトに関してグループでの取り組みを掲げ、金融・非金融ビジネスの両面から探索し、グループ会社が主体的に関与している点が特徴だという。
「もともとみずほには、社会課題解決と企業価値向上の両立を目指すDNAがある。23年に定義した新たなパーパスとインパクト志向の融合がこの羅針盤だ。インパクトジャーニーの大きな推進力になる」と話すのは、みずほフィナンシャルグループ・サステナブルビジネス部副部長の末吉光太郎だ。

同グループでは、サステナビリティを起点とした、社会・産業転換をリードするサステナブルビジネス戦略を策定。同戦略の実現の鍵となるテーマにインパクトを取り上げている。インパクトビジネスについては24年10月だけ見ても、みずほFGが国連開発計画(UNDP)と業務提携、みずほ銀行が「Mizuho インパクト預金」をリリース、みずほ信託銀行とみずほリサーチ&テクノロジーズが不動産の持つ「社会的インパクト」を見える化する独自の評価枠組みを開発するなど積極的に取り組んでいる。
「大手銀行から地方銀行、信用金庫まで幅広く当社が開発したポジティブ・インパクト・ファイナンス(PIF)に取り組むようになった。特に、地域金融機関の取り組み件数は累積1200件を超える。間接金融が主流の日本だからこその広がりで、世界でも珍しいインパクト・エコシステムだ」と話すのは、三井住友信託銀行フェロー役員の金井司だ。

三井住友信託銀行では現在、2つのインパクトファイナンスの中核的な取り組みを行う。ひとつは、政策保有株式の売却による投資余力を活用し、30年度までに5000億円のリスクマネーを供給する投資型の「インパクトエクイティ」だ。スタートアップ企業やファンドなどに投資し、これを呼び水に内外の投資家を集め2兆円以上の資金供給の実現を目指す。ふたつ目が融資型の「PIF」だ。企業活動が経済・社会・環境にもたらすインパクトを包括的に分析・評価し、ネガティブインパクトの緩和とポジティブインパクトの拡大を目標に設定し、その実現のコミットを融資条件とする。24年3月末までに74件、5238億円の取り組みを実施。そして同社が先導したPIFは全国的に広がり、日本におけるインパクト・エコノミーの拡張をうながしてきた。
また、同社は博士・修士号を持つ理系の専門家を採用しテクノロジー・ベースド・ファイナンスチームを組成している。企業や自治体、大学等と連携し、科学的な視点に基づくインパクト分析を行っている。「ステークホルダーが連携し、『インパクト経路』を可視化し合意を形成することがコレクティブなインパクト創出の原動力となる」(金井)