ブームを牽引する世界のショップ
美しくデザインされた文房具への需要が高まり、実店舗・オンラインを問わず、新たな専門店やブランドが活況を呈している。いずれも、書くという行為を特別な「体験」に変える取り組みが特徴的である。
・Shorthand(ロサンゼルス)
現代の文房具愛好家向け店で、日本製ノートや高級ペン、手作りのデスクアクセサリーを厳選している。形状と機能を融合させたハイクオリティな筆記具を求める人々が足を運ぶ目的地となっている。
・Baum-kuchen(カリフォルニア)
トラベラーズノートや和紙テープ、限定コラボ商品などを取りそろえた日本文房具ファンの拠点。意図的で思慮深いプロダクト選定は、スローリビングというライフスタイル観とも合致しており、多くの愛好家を惹きつけている。
・紀伊國屋書店(東京&グローバル)
日本の書店チェーンだが、いまや文房具販売にも注力し、消せるゲルペンや精密なシャープペンシル、高品質な和紙を幅広く提供している。その国際的な成功は、「日本製文房具=質と革新性の象徴」というイメージを世界に広める一翼を担っている。
・Liberty of London(ロンドン&グローバル)
歴史あるデパートが高級文房具ブームを取り込み、職人技が光るノートやパーソナライズ可能な筆記具セット、伝統的な万年筆などを扱っている。これらは使い捨てのオフィス用品ではなく、長く愛用できる「現代の家宝」として位置づけられている。
これらの小売業に共通するのは、書くことを「体験」に変える力である。厳選された品揃え、美しい店舗デザイン、職人技へのこだわりを通じて、シンプルなノートさえも芸術品に昇華させている。
なぜZ世代とミレニアル世代が牽引しているのか
この文房具復活の背景には、世代ごとの価値観の変化がある。デジタルツールの利便性は疑いようがない一方で、リアルで触れられる、個人的なものを求める意識が高まっているのだ。考えを書き留めたり、やることリストを作ったり、手書きの手紙を送ったりする行為には、画面上では得られない深い結びつきがある。
研究では、手書きが集中力や記憶力、創造的思考を高めるとされており、学生や若い社会人の間でプランナーやバレットジャーナルが人気を博しているのもそのためだ。また「Quiet Luxury(クワイエット・ラグジュアリー)」という考え方(より少ない物を、より高品質で長く使える形で持つ)が広がりつつあり、消費者がファストファッションを敬遠するように、リフィル可能なペンや革装ノートなど、長持ちする文房具にこだわる動きが加速している。