コラボレーションを重ねるうちに、「ラ・メゾン・ドゥ・ラ・ナチュール・ゴウ」も「ガガン」も店を閉めて一緒に店をやろうと持ち掛けられた。
「もちろん半信半疑でしたよ。世界のガガンと一緒に店をやるなんて。20席そこそこの店を大切に守り育ててきたのに、それを手放して、そんな大それた話にのるなんて馬鹿げているのでは、ありえない……」
しかし話は現実のものとなった。コロナ禍で遅れはしたものの、2021年にまず物件が決まった。それは自身が想像した規模をはるかに超えるものであった。オーナーは、福岡のエンターテインメントの会社。有名建築事務所の作品であるそれは、巨大な渦巻き状の3階の建造物。
1階は「GohGan」と命名した、アナンド氏と共同経営のカジュアルビストロ。メニューには、「ゴマサバトスターダ」「傑作まんじゅう博多Gohりもん」「スパイシークラブカレー」など、それぞれのスペシャリテがリーズナブルな値段で並ぶ。あくまで幅広い層へ向けての門戸の広い店を目指したのだという。
2階は、オーナーのエンターテインメント会社が運営するシアター。そして3階が福山氏の牙城「Goh」。ターブルドットスタイルといい、一つのテーブルを囲んでイノベーティヴフレンチのおまかせコースを賞味する。そんな壮大な構想が、コロナ禍をはさんで順次完成し、今に至る。

「以前からのお客さまには、雰囲気と料理が変わったねと言われる。一方、僕の料理を楽しみに遠方から来てくださるフーディには尖った料理を期待される。オープンして2年になりますが、その調整が一番大変でした。ようやく落ち着いてきて、食べやすい安心感の中にも驚きを潜ませた、自分らしい料理が出せるようになってきていると思います」
20数席の店を守ってきた頃と、世界のGohとなった今の違いを尋ねると「チームを組んでやることの意味を実感している」と語る。
「以前の店では経理まですべて私が見ていましたが、今は社員全員がわかるような透明性を目指しています。働いた分だけ利益を還元し幸せを分配する。幸せとは、収入が増えることかもしれないし、人を増やしてワークライフバランスをとることかもしれない。ブラックと言われる業界ゆえ、そういった働き方改革は必要とされています。
ただ私は、料理は時間をかければかけるほど美味しくなる、そして、その技術を身に着けるにはある一定の時間が必要になると信じています。だから、働きたい人間にはそれが叶う、そんなスタイルの店にしていけたら一番いいなと思っています。小さい店ではできなかったことがある程度の規模になることでできてくることもありますから」