AIはSNSから社会性を奪う
AIがいかに誤情報や偽情報を拡散しやすくしているかという話は、枚挙に暇がない。誤解を招くような画像や動画の作成にAIが使われがちだからだ。結果的に、ソーシャルメディアの社会性はAIによって大幅に低下してしまっている。
「AIは、私たちの世界の見方を大きく左右する」と警告するのは、ニューヨーク市立大学の社会人向けプログラム(プロフェッショナル・スタディーズ)でデータサイエンス専攻コースのアカデミックディレクターを務めるアーサー・オコナー博士だ。「機械学習アルゴリズムによって、良くも悪くも、驚くほど収益性の高い新しいビジネスモデルが生まれた。それは監視資本主義だ。プラットフォームがユーザーを監視して、その偏見、衝動、恐怖、欲望に迎合するのだ」
ニュースや情報の入手元としてソーシャルメディアに頼る人が増える中、ユーザーが見たり読んだりするものをAIが操作できることが大きな懸念材料となっている。
オコナーは、AIがつくり出すディストピア(反理想郷)といえば映画『ターミネーター』シリーズに登場する「スカイネット」や『マトリックス』シリーズの仮想世界を「誰しも思い浮かべるだろう」とした上で、「しかし、AIにまつわる最大のリスクはおそらく、私たち人間がAIをどのように変化・進歩させるかではなく、AIが人間をどのように変容させるかにある」と述べた。
「瞬発力のあるコンテンツをアルゴリズムが瞬時に生成できるようになると、フィードバックループが生じる。すなわち、注意力の持続時間が短くなって、よりシンプルなコンテンツが求められるようになり、これが注意力の持続時間をいっそう短くする。機械が賢くなればなるほど、私たちの多くはバカになる可能性があるということだ」
オコナーによれば心理学ではこの現象を「認知的オフロード(認知負荷の軽減)」と呼んでおり、この状態に陥った人は自分の中に眠っている能力を開発するよりも、外部ツールに依存しがちになるという。
「問題と格闘するのではなく、AIに即答や解決策を求めるだけになる。このとき私たちは、批判的思考や論理的思考を自ら退化させるリスクを冒している。電卓が算術能力を、スマートフォンが電話番号を覚える記憶力を、GPSナビゲーションが方向感覚を衰えさせたのと同じことだ」
それだけではない。チャットボットやバーチャルアシスタントは社会的な交流を疑似体験させてくれるが、そこには実際の人間と対話すれば直面する課題や成長の機会がない。このような疑似社会性は、疎外感や孤独感を悪化させるおそれがある。
「ソーシャルメディアにおけるAIの利用が現代社会の分断化や孤立を生んだわけではないことは確かだが、明らかに状況の改善にはつながっていない」とオコナーは述べた。