しかも、ショーン・ベイカー監督は、作品のなかではこのような不遇な登場人物たちに対して寄り添うような視点から描いていく。表現としてコメディの形をとることも多いが、底流にはいつも彼らや彼女たちに対する心優しいシンパシーが感じられる。
今回の「ANORAアノーラ」のラストシーンは、そんな監督の主人公への思いが込められた、いたく胸が締め付けられるものとなっている。シンデレラストーリーはここに行き着くのかと、この最後の場面では深く心に突き刺さった。
「ANORAアノーラ」という作品は、色彩表現でも優れている。特に前半のシンデレラストーリーでは、「フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法」で見せた鮮やかな色使いが健在で、見ていて思わず多幸感に包まれる。そして一転、後半ではアノーラの心中を象徴するかのような抑制された色調が続く。
ちなみに、「ANORAアノーラ」は、アカデミー賞では作品賞や監督賞の他に、主演女優賞にもノミネートされているが、ストリップダンサーであるアノーラを演じたマイキー・マディソンの踊りも含めた「なりきり演技」も素晴らしい。
ともかく、この作品ではあまり情報を持たずにスクリーンに向かうことをお勧めする。そうすることで、シンデレラストーリーの「その先」が、さらに興味深いものとして楽しめるはずだ。
連載 : シネマ未来鏡
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