しかし、これを聞いたロシアに住むイヴァンの両親は、アメリカでの目付け役たちをイヴァンの屋敷に送り込む。結婚を無効にせよと手荒く迫られ、頑強に抵抗するアノーラだったが、ロシアから両親が乗り込んでくると聞くと、イヴァンはさっさと豪邸から逃げ出してしまうのだった。
イヴァンはニューヨークでのお目付役から結婚を破棄するように説得される。映画『ANORA アノーラ』は2月28日(金)より全国ロードショーで公開 ©2024 Focus Features LLC. All Rights Reserved. ©Universal Pictures
ここからが監督であるショーン・ベイカーの真骨頂だ。アノーラと目付け役3人との丁々発止の闘い、逃げ出したイヴァンへの追跡劇、そして彼の両親の到着、これらがコミカルなやりとりも交えながら、前半の「シンデレラストーリー」とは打って変わった「その先へ」のシリアスなドラマへと繋がっていく。まさに先入観を裏切る興味深い展開となっていた。
カンヌ映画祭で最高賞に輝く
「ANORAアノーラ」を監督(&脚本)したショーン・ベイカーは、1971年、アメリカのニュージャージ州生まれ。2000年に「Four Letter Words」という作品で映画監督デビューを果たし、2012年の「チワワは見ていた ポルノ女優と未亡人の秘密」で注目を集める。
その後、前出の「タンジェリン」や「フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法」を発表。インディペンデント映画のフィールドで、作家性の強い作品を多く送り出してきたが、今回の「ANORAアノーラ」はそれら過去作とは少々趣が異なり、エンタテインメント色の濃い作品となっている。
アカデミー賞では、これまでショーン・ベイカー監督の作品は「フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法」でウィレム・デフォーが助演男優賞にノミネートされたのみだったが、今回の「ANORAアノーラ」は、3月2日(現地時間)に開催される同賞で、作品賞や監督賞を含む6部門で有力候補に挙がっている。
また、昨年の第77回カンヌ国際映画祭では、最高賞であるパルム・ドールにも輝いており、いまや乗りに乗る監督の1人だ。ちなみにアメリカ映画が同賞を受賞したのは、2011年の第64回の「ツリー・オブ・ライフ」(テレンス・マリック監督)以来、13年ぶりとなる。
ショーン・ベイカー監督の作品は、貧困層の人たちやセックスワーカーなど、社会の辺縁で生きるマイノリティの人たちを主人公にしたものが多い。前作の「レッド・ロケット」(2021年)も、落ちぶれたポルノ俳優がドーナツ店で働く少女との交流をきっかけに再起をはかろうとする物語だった。


