初めての映画を観るときは、なるべくその作品の情報は集めないようにしている。あらかじめ余計な先入観を抱かないためだ。それでも劇場などで予告編の映像を目にすることもあり、まったくの白紙の状態で作品に接することは難しい。
特に事前の宣伝物などは、なかなか巧みにつくられており、興味を引くために観客をミスリードするような内容のものも少なくない。実際に見ると、こちらが想像していたものとは、180度違った作品に出合うこともあったりする。
それで、いつしか「すれっからし」になって、そんなものには騙されまいと警戒警報を発令。あらかじめ作品についての情報にはあまり触れないようにしている。
映画「ANORA アノーラ」について、事前に目にしたのは「シンデレラストーリーのその先へ」という宣伝コピーだった。そして、添えられたヴィジュアルを見る限りは、華やかな「シンデレラストーリー」を想像するのは容易なことではあった。
しかし、監督があのショーン・ベイカーだ。トランスジェンダーのカップルを主人公に全編をiPhoneで撮影した「タンジェリン」(2015年)、ディズニー・ワールドの近くで暮らすその日暮らしの母娘を描いた「フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法」(2017年)の監督だ。ただの「シンデレラストーリー」で終わるわけがない。コピーで気になったのは「その先へ」だった。
ショーン・ベイカー監督の真骨頂
ニューヨークのクラブでストリップダンサーとして働くアノーラ(マイキー・マディソン)は、店にやって来たロシア人の青年イヴァン(マーク・エイデルシュテイン)を接客することになる。ロシア系で少しばかり言葉が喋れるということで彼の席につくことになったのだ。

主人公はストリップダンサーをしながらニューヨークのブルックリンで暮らすアノーラ(マイキー・マディソン) ©2024 Focus Features LLC. All Rights Reserved. ©Universal Pictures