英国はなぜ著作権法改正をめざしているのか
英政府の科学・イノベーション・技術相は昨年12月、AI分野と広範な経済への投資、イノベーション、成長を刺激することを目的に著作権法の改正を提案した。
改正案は前文で、こう指摘している。「著作権者は、AIモデルの訓練に対して著作物の使用を管理することも、使用された場合に報酬を求めることも、難しいと感じている。AI開発者も同様に、英国の著作権法への対応に難しさを感じており、この法的不確実性がAI技術への投資や技術導入を損なっている」
しかし、無音アルバムの制作に参加した一人である作曲家のトーマス・ヒューイット・ジョーンズは、英政府がめざす著作権法改正は「英国のミュージシャンのライフワークを無償でAI企業に提供することになる」とX(旧ツイッター)に投稿した。法改正をめぐる意見公募は25日に締め切られた。
I'm one of 1,000+ musicians who are jointly releasing this album today to protest the UK
— Thomas Hewitt Jones (@thewittjones) February 25, 2025
government's planned changes to copyright law, which would hand the life's work of the
country's musicians to AI companies for free. It's an album of recordings of empty studios,
which is… pic.twitter.com/4z6tbQnClQ
エルトン・ジョン、ポール・マッカートニーも批判
英著作権法改正に抗議しているのは、無音アルバムに参加した歌手や作詞家、作曲家、プロデューサーたちだけではない。音楽界、メディア、映画界の著名人も続々と声を上げており、その中にはエルトン・ジョンやポール・マッカートニー、TVタレントでレコード会社の重役であるサイモン・コーウェルも含まれている。
コーウェルは21日、英紙デイリー・メールにAIに関する意見記事を寄稿。自身はAIのもつ多くの側面のファンであり、ゲームチェンジャーとなる技術だと考えているとした上で、生成AIツールが人間の創作した作品と事実上区別が不可能な写真や動画、楽曲を作成できてしまう現代において、AIが音楽業界に複雑な影響を及ぼしていることも指摘した。
「AIが何の規制も受けずに見境なく使用されていると聞いた。恐ろしいことだ」とコーウェルは綴り、次のように訴えている。「私にとって素晴らしい歌とは、素晴らしい絵画のようなものだ。私は未来を真摯に受け入れているが、同時に公平でなければならないとも思っている。そして、私がこの原稿を書いているのは、人々が発揮する個性ある創造性をこよなく大切に思うからに他ならない。最初に魔法を生み出した人間の才能を盗むことが、AIにできてはならないのだ」