日本には現在792の市があるが、なかには地元の人でなければ読むことすらできない難読市がたくさん存在する。縁あって聞いたことのある名前でも、いざ漢字で書こうとすると書けない。そんな書けそうで書けない市の名前のトップ10が発表された。
みんなでつくる地域応援サイト「生活ガイド.com」が10代から80代の会員134人を対象に調査を行ったところ、書けそうで書けない市のナンバー1に輝いたのは、鹿児島県の「曽於市」(そおし)だった。2位は千葉県匝瑳市(そうさし)、3位は佐賀県小城市、以下、難しい名前が続く。

じつは、1位から同点4位までの5つの市は、21世紀になってから市制施行により誕生した新しい市だ。「だから知らないのかー」なんて安心してはいけない。地名そのものはずっと昔からあったからだ。曽於市は2005年に市になったが、日本書紀にはすでに大隅国曽於郡(囎唹郡)の記述がある。

曽於は、もともと古事記にも登場する一族、熊襲(くまそ)の土地であったことから「襲の国」または「曽の国」と呼ばれていた。於は、「弊社に於きましては」なんてときに使われる場所や時間を指す言葉。つまり「曽の場所」という意味となる。1000年も前からあった地名であり、ごく最近になって突如として現れたわけではないのだ。
しかし、やっぱり知らなければ読めないし書けない。鹿児島県曽於市商工観光課の担当者は、曽も於も口頭で伝えることに苦心しているそうだ。曽は「ギャル曽根の曽」、「増の土偏がないやつ」などと言えるが、於はスムーズに出てこないという。よいアイデアがあったら教えてくださいとのことだ。
その点では、千葉県匝瑳市も負けてはいない。「匝」は漢字検定2級以上で出題される文字で、「めぐる」という意味だが、めぐると言われて「匝る」と書ける人はどれほどいるだろうか。「瑳」はセッサタクマのサだが、普通は「磋」と石偏で書くことが多く、それ以前に切磋琢磨をさらっと書ける人は上級だ。
今はパソコンやスマホで県名から入力すれば一発で出てくるけど、電話で市の名前を伝えていた昔の人たちはかなり苦労しただろう。でもそれだけに、地名の成り立ちや漢字の意味を深掘りする楽しみもある。歴史ある難読難筆地名が末永く伝えられますように。



