3. アイデンティティの危機、「自分はまだ自分なのか?」
長期的な関係は、2つの人生を結びつける。日常が交わり、アイデンティティが変化し、優先順位が融合する。これによって深い結びつきが得られる一方で、特に自尊心を独立や自由、冒険心と強く結びつけている人にとっては、アイデンティティの危機が生じることがある。
月日が経つにつれ、かつての独身で気ままな、あるいは好奇心旺盛だった自分とのつながりを失ったと感じる人は少なくない。自分を個人というより「パートナーの一部」として認識し始め、停滞感を覚えることがある。
自己拡張モデルの研究によれば、人は本質的に「自己の感覚を広げたい」という動機を持っており、それは親密な関係を深めるかたちでも、新しい刺激的な経験を追い求めるかたちでも満たされる。もし現在の関係が、この自己拡張への欲求を十分に満たせていないと感じた場合、浮気を含む別の場所でそれを求めてしまうことがある。
このケースでは、浮気は必ずしもパートナーを否定する行為ではなく「失われた自己感覚」を取り戻そうとする誤った試みにあたる。自由や魅力、日常から失われた刺激を再発見しようとする手段として浮気に走ってしまうのだ。しかし研究によれば、自己拡張を実現するのは何も関係の外に限らない。むしろ関係のなかで自己成長を図ることも可能である。
浮気によって個性を取り戻そうとするのではなく、関係のなかで自分だけの趣味や時間を確保したり、パートナー以外の友人関係を維持したりするなど、自立を保ちながら成長できる環境を整えることが重要だ。充実した関係とは、自立を犠牲にするものではなく、愛と個人の成長を競合させず、共存させることで成り立つ。