「1行目に、『社員を出身で差別することは許さない』と書いてあったんです。トップの明確な意思があったから自分たちは嫌な思いをせずに済んだ。そのことを知って、こんどは違う意味で涙が止まらなかった」
むしろ苦労したのは買収側に回ったときだ。11年、買収先のオーストラリア企業にトップとして赴任。しかし、デューデリジェンスで開示された情報に誤りがあり、いわばだまされたかたちになった。訴訟を進めると同時に、混乱する事業も建て直す必要がある。難しいかじ取りだった。
「このとき学んだのはチームの大切さ。私はどちらかというと自分で何でもやらないと気が済まないタイプでした。しかしひとりで訴訟とターンアラウンドの同時進行は無理。現地のみんなに理解して助けてもらわなければできなかった」
アサヒグループホールディングスは24年4月にガバナンス体制を変更した。従来のリージョナルヘッドクォーター(RHQ)制を維持しつつ、地域事情に優先する5つの領域に関してはGroup CXOを設けた。買収先の安定化が進んだからこその次のステップだ。一方、Group CXOに各RegionCEOを加えた諮問機関エグゼクティブ・コミッティーを設置し、各地域の声を意思決定に生かす。
「カリスマ型のリーダーひとりが率いていけるほど世界は単純ではない。優れた人の意見を取り入れつつ組織として成長していきたい」
自らの経験から、決して慌てず、買収された側の思いを生かしながら進める“PMI勝利の方程式”を見つけた勝木。現在は日本・欧州・オセアニアを核とした3極体制だが、「機会があればUSや成長国など、もうひとつ極をつくりたい」。その際には勝利の方程式が再び生かされるだろう。
勝木敦志◎北海道岩見沢市出身。1984年青山学院大学経営学部を卒業後、ニッカウヰスキーに入社。2002年にアサヒビールに転籍。国際経営企画部長を務め、14年に豪社CEO。アサヒグループホールディングスCFOなどを経て21年より現職。


