映画

2025.03.11 15:15

米国テレビ業界を震撼させたセクハラ問題に学ぶ│映画「スキャンダル」

映画『スキャンダル』より

女性差別を内面化する女性たち

ついにクビになったグレッチェンが直後にロジャーを訴えたことがニュースとなり、局内ではメーガンがこれにどう反応するか、戦々恐々とした空気が漂う。彼女はロジャーを擁護するのか、しないのか。メーガンを演じるシャーリーズ・セロンは、内面の葛藤を表に出さない抑えた演技だ。

確執の続いていたトランプとの最後の対話で、支持者からの嫌がらせをやめさせる約束を取り付けたメーガンだが、夫からは「君は譲歩した」と指摘され、家族の生活のためだとその場で初めてキレている。「生活のため」という台詞は、彼女がロジャーのセクハラ被害者であることにも暗に重ねられている。身に覚えのあるメーガンがグレッチェンの訴えにすぐ賛同できないのも、生き残りがかかっているからにほかならない。

しかし保身はメーガンだけではない。ロジャーの支配とジェンダー規範に少しでも抵抗した者は排除されていく職場で、女性差別を内面化する女性たちも少なくない。

たとえばロジャーのアシスタントの年配女性フェイは、彼の長年のセクハラを熟知しながら見て見ぬふりをしている。あるベテラン女性スタッフは、「欲望するのは男だから当然。皆、彼に恩を受けてる」とメーガンを牽制し、「彼は私たち女性を積極的に起用してきた」と擁護しながら「TEAM ROGER」のロゴ入りTシャツを配る女性も現れる(面白いのはこの人が、ロジャーが去った後、禁じられていたパンツスーツで颯爽と出社するところだ)。

局内の女性は誰もグレッチェンに続いて声を上げない。そんな中、FOXを去った過去のロジャーの被害者たちがようやく名乗り出る。そのことに勇気を得たメーガンは、チームを組んでいるスタッフたちを前に「本当のことが知りたい」と告白する。

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彼女にアシスタントの女性が投げかける「本当に知りたいんですか? 知りたい振りをするだけですか?」という言葉が強烈だ。あなたは舌鋒鋭くトランプをはじめとする男たちと闘う姿勢を見せてきたけど、今回のそれも格好だけじゃないんでしょうね?と問うているのだ。



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厳しい言葉はケイラからも投げかけられる。突然「あなたはセクハラされた?」と尋ね、「自分も同じだったからわかるのだ」と付け加えたメーガンを、なぜその時告発しなかったのか?とケイラは責める。あなた方はなぜ沈黙して、私に何も教えてくれなかったのかと。

立場を利用し性的行為を強要する者が、一番悪いに決まっている。問題は被害者が、これも仕事の一つなのだと思い込まされ、忌むべき体制に加担させられて、身動きできなくなっていくことだ。

FOXニュースの顔でもあったメーガンがロジャーを告発するまでの長い逡巡からは、性を人質に取られて出世した女性の諦めと自己欺瞞と密かな罪悪感、そして抑圧された怒りが静かに伝わってくる。

メインビジュアル=Academy Award® is the registered trademark and service mark of the Academy of Motion Picture Arts and Sciences.Bombshell © 2019 Lucite Desk LLC and Lions Gate Films Inc. All Rights Reserved. Artwork & Supplementary Materials © 2020 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.

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文=大野左紀子

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