「大手アパレルの知名度を利用して、ナンガという会社がダウンジャケットをつくっていることを周知する。同時に、売れるデザインやトレンドを学んでいきました」
10年以上のOEM生産で技術とノウハウを蓄積した後、16年、満を持してナンガをリブランディング。デザイナーを迎え入れ、それまで横田ひとりで担っていた業務を分業化。翌年には売上高10億円を達成し、コロナ禍のアウトドアブームも追い風となり、ダウンジャケットはヒット商品となった。現在は約40社のセレクトショップと取引し、全国に11店舗を展開。今後は15店舗に拡大予定だ。
しかし、急激な成長におごることなく、横田は地に足のついた経営を重視する。
「このままでは、若い社員たちが『簡単に売れるものなんだ』と勘違いしてしまう。本心を言うと、苦労しながらものづくりの面白さを学んでほしいんですよね。社員と会社の足並みを揃えながらともに成長していくのが理想ですね」
2017年からは海外展開を本格化。アメリカやヨーロッパを中心に世界各国で展示会を開催し、海外ブランドとのコラボを積極的に行うことで認知度向上を目指している。「『暖かさ』は抽象的な概念です。それを海外にまでどう具体的に伝えたらよいのかが課題でした」。そこで21年、独自の研究機関「ナンガ マウンテンラボラトリー」を設立。長年培ってきた羽毛の選定や使用量、構造設計などのノウハウを科学的に分析し、断熱効果や快適性を数値化。より高機能な製品開発に取り組んでいる。
「ナンガのダウンジャケットが支持される理由は、トップクライマーたちが極限の環境でも使用する高品質な寝袋を開発してきたという実績があるから。世界一のダウンジャケットブランドとしてトップラインになるためには、確かな根拠と技術があることを示すエビデンスが必要だと思っています」
横田智之◎1978年、滋賀県生まれ。高校卒業後、貸衣装屋に就職し、2年間トップ営業として活躍。2001年、家業であるナンガに入社。2カ月間の「山ごもり」と呼ばれる新人研修を経て営業職に就く。ダウンジャケット製造のノウハウをゼロから築き上げ、2009年の社長就任以降、従業員180人、売上高60億円規模の企業へと成長を牽引。