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2025.02.25 20:00

「顧客企業の7割が黒字になった」地銀・信金のトップが語る「地域に帰る金融」

先駆的な信金も紹介しよう。金融危機が起きた1998年に集金業務を廃止し、00年に日本の金融機関として初めて手数料収益を目的としない「ビジネスマッチング」をスタートさせた西武信用金庫だ。03年には信金では珍しかったベンチャーキャピタルを設立。また、顧客企業に大企業の元経営者や技術専門家、中小企業診断士をアドバイザーとして投入する「専門家派遣」というサービスを金融機関として初めて試みている。そうした成果もあってか、顧客企業約2万社のうち7割が黒字だという。日本の中小企業の黒字申告は約3割から4割(国税庁統計)を推移しているから「黒字企業7割」の達成は、信金ナンバーワンと言われる証だろう。

90年代から顧客支援の先頭に立ち、19年に理事長に就任した髙橋一朗に話を聞いた。

「私たちが早くからVCをつくった理由は、融資という仕組みでは未来からの負託に応えられないと思ったからです。融資では、翌日から返済が始まります。それは、お金が生かされて、10年後に開花するという発想ではありません。未来を託すには金融の役割を変える必要があります。突然ですが、弥生時代の日本の人口をご存知ですか? 稲作による生産経済が始まって一気に人口が10倍になり一説には15万人と言われています。縄文の時代から2000年以上にわたって人口は1万倍まで増え続けます。

衣食住を作り続けなければならず、人間のあらゆる行動様式に『増やす』という基本形が刷り込まれていくわけです。そして経済活動とは、山頂に向かって、いかに早く到達するか、スピードが勝負となります。ところが、08年に人口はピークアウトして、歴史上、初めて人口が減る事態になりました。そうなると、行政、教育、保険、年金、あらゆる仕組みが変わっていきます。金融も同様です。

ご融資の際、不動産担保を頂戴します。これは不動産価格が上がっていく前提があるから担保になります。しかし、将来、価値が下がるかもしれない不動産を担保にする意味があるのか。08年に山頂に登りきるまでは、時間差が勝負だったので、力がある大手企業が有利でした。しかし、今、人口が減り続けるので、逆に急いで駆け下りてはいけない。山の頂点から坂道を降りる際、少しずつ小さく降りる方がいい。速さではなく、360度、どこに降りてもよい多様性の時代になったのです。本部での一括仕入れはやめて、お店ごとに品揃えを変えている大手量販店もあります。地域や客層に合わせて、お客さんに寄り添っていくマーケティングが、手間はかかってしまうけれど、生き残っていくのだと思います。

企業の小ささというのは相変わらず不利ではあるけれど、小さいことを有利にできる時代が到来したと思っています。付加価値が高いものを少量でも作っていき、コアなお客さんを見つけてマーケティングしていく。お客さんに近いところにいる人が強くなれる2000年間待っていた時代が来たと思うのです」

顧客の業績向上が職員の評価に

髙橋は、職員の営業成績の評価方法を変えた。担当している企業が、どれだけ売り上げや利益を出したりしたかを指標とした。つまり、顧客へのアシストが評価となるようにしたのだ。24年度も年間で、専門家派遣1300回、ビジネスマッチング5500件、受発注成約支援1000件を見込んでいる。こうした支援が顧客企業を黒字化させた結果、西武信金も毎期100億円を超すコア業務純益を計上している。

髙橋は、「国連は、25年を国際協同組合年と宣言しているんです」と言う。

「戦争が契機になったのかもしれませんが、競争ではなく、協創、協力しあうという原点に立ち返れ、という意味だと思うんです。19世紀にヨーロッパで生まれた協同組合は、すべて地域の方々がつくった組織です。21世紀の金融は、地域に経営権を返す時代だと思っていて、地域の皆さんには生き残るためにこの組織を利用していただきたいと思っています。だから、21世紀の金融は地域に帰るべきだと考えているのです」

文=Forbes JAPAN編集部

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