大雑把に言うと「2日間で430億ドル(5兆3,000億円)の損失が発生した」ほどの酷さなのだ。8月18日にはメディア関連株はさらなるショックに見舞われた。
時価総額で400億ドル以上が吹っ飛んだ2週間の後、米ウェルズ・ファーゴ銀行はウォルト・ディズニー、CBS、21世紀フォックスの3銘柄の投資判断を「優良(アウトパフォーム)」から「中立(マーケット・パフォーム)」に引き下げた。ケーブルテレビ局HBOの親会社、タイム・ワーナーだけは格下げから免れた。
ウェル・ファーゴは「ケーブルネットワーク事業の先行き不安による不透明感」を格下げの理由としている。
ここでの「先行き不安」とは、ディズニーが決算発表に合わせて示した「ケーブル契約者の減少が売り上げ減につながった」とのコメントだ。具体的には「契約者数が低水準にとどまり、国内のケーブル関連収入はやや予想を下回ることになりそうだ」と、ディズニーの最高財務責任者(CFO)クリスティーン・マッカーシーが8月4日、投資家達に弱気の見通しを伝えたことだ。
この発言は、「契約解除が増加する懸念が強まっても、ディズニーはまだ傘下のスポーツチャンネル、ESPNのスポーツ中継という奥の手がある」と長い間、安心していた投資家達を動揺させると共に、「他のメディア企業も同様な状況ではないか」との憶測を呼んだ。
ディズニーの没落が明らかになった8月4日以降、ディズニー株は12%、タイム・ワーナーは10%値下がりした。21世紀フォックスは12%、CBSは7%、MTVやパラマウント映画を手掛けるバイアコムに至っては22%の急落。S&P 500のメディア株全体では10%の下落となった。
ウェルズ・ファーゴは投資判断を引き下げ、先行き警戒感を強めているものの、ESPNへの懸念は行き過ぎだとしている。
「ディズニーのことは、我々も我々の子供も大好きだし、一部で言われているようにESPNが駄目になったなどとは思っていない。確かに一時、ESPNがディズニーの連結営業収入の40%近くを占めていたことを考慮すれば業績低迷は問題だが、本当に駄目になってしまったわけではない」と、ウェルズ・ファーゴのリポートは記している。
本当の懸念材料はディズニーのスター・ウォーズ関連のフランチャイズ展開、特に上海でのテーマパーク建設だ。CBSと21世フォックスに関して言えば、ウェルズ・ファーゴはさらに強い懸念を抱いている。
CBSは「オーバー・ザ・トップ」と呼ばれる高速回線で契約者に直接、番組を提供する独立型サービス「ショータイム」を6月に開始したが、このサービスの先行きについては強気の見方がある一方で、アメフトのスーパーボールのようなイベントからの不安定な収入に起因する弱気の見方がつきまとっている。
「我々はここに『希望』を見出そうとしているが、現在のメディア産業で起こっていることを見ると、もはや『希望』を当てにすることはできない」とリポートは結んでいる。
フォックスはケーブルTVの契約者の減少に加え、従来のサービスよりもチャンネル数を絞った「スキニー」と呼ばれるパッケージに乗り換える動きの影響も受けそうだ。このような新パッケージは、21世紀フォックスの関連企業収入の30%近くを占める地域スポーツネットワーク(ヤンキースとメッツの試合を放送するYESとSNY、ボストンのNESN、ワシントンD.C.のMASNさらにはSportsNetLAなど)の減収につながるからだ。
「スキニーだけにとどまらない大問題になるかもしれない」とウェルズ・ファーゴは注意を促している。
売上げ堅調なタイム・ワーナーの投資判断は「優良」にとどまり、格下げを免れた。HBO NOWが好調な滑り出しで、たとえ広告収入が減少しても堅調を維持すると判断された。従来以上のスポーツ番組数を持つTNTとTBSは、高額なESPNに比べて「スキニー」の攻勢を受けにくいと予想されている。