中国の監視体制の矛盾
こうした闇市場の台頭は、中国の監視体制の核心にある矛盾を浮き彫りにしている。監視システムは本来、国民に対する政府の統制力を強化するために作られたものだったが、今や作成者に背を向けられ、政府が強制するはずだった支配を弱体化させるために利用されているのだ。かつては政府の監視網を信頼していた、あるいは少なくとも受け入れていた国民も、最近では自身の個人情報が最高額の入札者に売られていることに気づき始めている。その影響は中国国内にとどまらない。データの盗難には国境がなく、流出した情報は国際的な犯罪網に渡ることが多い。中国の監視システムから取り込まれたデータが国際的なサイバー犯罪の流れの中に入り込む事例が増えているため、中国国外の個人や組織にとっても潜在的な影響は深刻だ。
中国の監視システムの悪用は、どんなに安全そうに見えるデータであっても完全に安全なものはないという警告でもある。中国共産党は世界で最も侵入的とも言われる監視網を構築してきたが、内部関係者による悪用を防げなかったことは、システムの重大な脆弱(ぜいじゃく)性を露呈している。たとえ技術的には洗練されていても運営を人間に頼っていることが、このシステムにとって「弁慶の泣き所」となっている。
中国政府は監視能力を拡大するにつれ、データ基盤を保全しながら内部の腐敗にどう対処するかという課題を突きつけられている。実質的な改革を行わない限り、データ悪用の連鎖は続き、システムに対する国民からの信用を失うとともに、膨大な数の市民を危険にさらすことになるだろう。
(forbes.com 原文)