テクタイトは、隕石の衝突で巻き上げられた土砂や岩屑が地表に落下する間に急速に冷えて固化することで形成された天然のガラス質物質だ。過去の研究では、テクタイトの分布と化学組成に基づき、広範囲にテクタイトが飛散している4カ所の地域が地図上に示されている。
北米のテクタイトは、3500万年前に形成されたチェサピーク湾クレーターに関連づけられており、欧州のテクタイトは、1500万年前に形成されたネルトリンガー・リース・クレーターに、アフリカ・コートジボワールのテクタイトは、100万年前に形成されたガーナのボスムトゥイ湖クレーターに、それぞれ関連づけられている。
だが、オーストラレーシア(オーストラリアとニュージーランドからニューギニア島までを含む南太平洋地域)のテクタイトの発生源となったクレーターは、最も広範囲に及ぶ飛散地域を形成しているにもかかわらず、科学者によるこれまでの探索では同定されていない。オーストラレーシアのテクタイトは、インド洋からオーストラリア、インドネシア、東南アジアまでの一帯と南極でも見つかっている。この天体衝突は、年代が推定約80万年前と若く、直径20kmのクレーターを形成したに違いない規模であるため、見逃されることはないはずなのだ。
テクタイトの分布に基づき、衝突が起きたのはアジア大陸東部のどこかに違いないという点では、大半の研究者の間で意見が一致している。2019年に発表された研究では、カンボジアからラオスにかけて広がる広大な火山岩台地の下に、隠れた衝突クレーターが存在することが示唆されている。一方、意見を異にする研究者は、提示されている証拠に疑問を呈し、火山性台地の岩石の大半は天体衝突よりも年代的に古く、クレーターを完全に覆い隠すことは不可能だと指摘している。2023年には、重力と磁場の調査で、中国北西部にあるバダインジャラン砂漠の砂丘の下に異常が見つかった。この発見を報告する論文では、この異常は衝突構造の可能性があると解釈されている。だが、岩石サンプルが採取されていないため、この異常の本質は不明のままだ。



