ロシアが最初に人工衛星を打ち上げた頃、宇宙開発競争では米国が優勢と考えられてきた。同じように、今回は中国が西側のAI技術を追い越したかのように見える。しかし、グローバル化が進んだ現代で、これほどの成果がどのようにて秘密裏に成し遂げられたのかは大きな謎として残っている。ロシアがスプートニクを開発した時代には孤立した環境が可能だったが、現在ではほとんどのものが孤立して行われることはない。
DeepSeekの技術が水面下で開発されたという事実は、それを隠蔽するための多大な努力があったことを示唆している。
DeepSeekの優位性
DeepSeekの技術は見くびるべきではない。同社はOpenAIがChatGPTを開発するために投じた費用の約3%でAIを訓練することに成功し、しかも米国政府が中国への輸出を規制している最高級のエヌビディア製チップを使わずに実現した。こうしたチップを必要としなかったという事実が伝わったことで、エヌビディアの時価総額は5890億ドル(約89兆4500億円)も下落した。AIがもはや膨大なリソースを必ずしも要しない可能性を示す出来事だったといえる。もっとも、これだけで中国がAI開発の主導権を握ったと判断するのは尚早だ。輸出規制は施行されてから日が浅く、今後長期的に中国のAI開発を抑制する可能性もある。また、比較的安価に同等性能のモデルを作れるからといって、強力な計算能力を投じた場合に得られるさらなる性能向上やブレークスルーが否定されるわけではない。