Tracy:究極の目的は、日本経済の成長です。世界的に、企業の株主エンゲージメントに対する意識は年々向上しています。株主の中には、企業と話をして懸念を伝えるだけの株主もいれば、投票を通して意思表明をする株主、また具体的な提案をする株主や、深刻なガバナンスの問題が見受けられた場合に取締役の交代を求める積極的な株主もいます。このようなさまざまなタイプの株主に対応するためには、多様なスキルをもつ取締役の構成が必要であるという認識が高まり、過去数十年において特に欧米諸国における取締役会の多様化が進んできました。
一方で、日本企業は長い間、経営陣が株主にフォーカスしてきておらず、それが海外投資家の日本株への投資意欲を弱めていました。そんな中、故・安倍晋三元首相が2012年から実行したアベノミクスの三本目の矢である「民間投資を喚起する成長戦略」の中で、コーポレートガバナンスの強化、そして女性の活躍推進などの改革が取り組まれました。これらの動きを通して、日本企業のコーポーレトガバナンスや株主対話に対する意識が徐々に変わってきました。
吉川:それに加えて、ここ最近の一連の大企業の不祥事によって、ガバナンス向上の必要性についての意識が一般レベルでも高まってきていますね。具体的には、理想的な取締役会には何が必要でしょうか?
Tracy:効果的な取締役会は、Foresight(先見性)、Insight(洞察力)、Oversight(監督力)を備えています。そして、株主と生産的な対話ができる取締役が必要です。これらのニーズを満たすには、多様なスキルセット、経験、知見をもつ人材から構成される取締役会が必要です。日本では未だに経営者が個人的な人脈を通して、「仲良しグループ」の取締役メンバーをそろえることが少なくないですが、スキルにもとづいた取締役の採用が必要です。取締役メンバーがもち寄るスキルをポートフォリオとして考えて、今のメンバーに足りないスキルは何か? どういう追加のスキルや経験があると、コーポレートガバナンスを強化できるかを考えて採用する必要があります。
吉川:日本における女性の社外取締役登用の現状についてはどう見ていますか?
Tracy:これまで女性の社外取締役には、会計士、弁護士、教授などが多かったと言えますが、ここ2〜3年で大きく変わってきています。その一つの背景として、取締役のスキルマトリックスを開示するプライム上場企業が増えていることがあります。これによって、社外取締役の要件が以前は「女性であること」や「弁護士であること」といったものから、より具体的なスキル要件に変わってきています。例えば、マネジメントの経験、ITやDX(デジタルトランスフォーメーション)のスキル、IR/SR(投資家および株主リレーション)のスキル、グローバルな事業経験などです。将来の事業拡大を見据えて、具体的なスキルの要件を求める企業が格段に増えてきています。JBDNには、海外で活躍する日本人女性や、日本企業の取締役に興味がある有能な外国の女性プロフェッショナルが多数参加しています。そういう人材と日本企業を繋げることがJBDNの一つのミッションだと考えています。


