会場は以前このコラムでも紹介した銀座にある中国語ブックカフェ「単向街書店」で、筆者も聞き手として登壇した。
舛友さんと知り合ったのは、昨年9月上旬に開催された毎日新聞主催の「中国<新移民>のインパクト~ガチ中華急増やタワマン特需の裏側」というオンライントーク番組だった。彼とはずいぶん歳が離れているが、ここ数年、ガチ中華の世界に分け入っていた筆者にとって、関心領域や問題意識を共有している新しい書き手の登場はうれしかった。
「潤日」とはどういうことか?
では舛友さんがイベント当日に語った「潤日(ルンリィー)」とはどういうことなのだろうか。
近年、中国の富裕層やアッパーミドルクラスによる日本への移住が増えている。こうした動きや移住者たちが「潤日(ルンリィー)」と呼ばれている。「潤」という中国語の発音は英語の「run」とダブルミーニングであることから「移住する」「海外へ逃げる」という意味で使われるようになったのだ。彼らは20世紀に日本にやって来た「新華僑」世代とは異なり、資産の保全や教育機会、言論の自由の追求を目的に来日している。そんな彼らの動向がいかに日本社会にインパクトを与えるのか。舛友さんの新刊の核心はそれを探ることにある。
2025年に入り、米国ではトランプ新政権の不法移民対策が始まり、共和党議員が中国人の不動産購入を禁止する法案を提出。欧州でも切実な政治的イシューとして移民問題が噴出するなか、日本でも外国人労働者が過去最高で230万人超となったことが報じられたばかりである。常に(いい意味でも悪い意味でも)周回遅れの日本社会ではあるが、こうしたグローバルな動向と連動した現象として今日注目されているのが、コロナ禍後に出現した「中国新移民」の来日、すなわち「潤日」という動きと言えるだろう。
舛友さんの新刊は、多くの日本人が「タワマンを中国人が爆買い」などといった噂話レベルの報道でしか知ることのなかった、中国人富裕層の多様な実態を取材したものだ。その内容は筆者自身がいちばん知りたかったことだったし、近未来の日本社会の行方を考えるうえで、不可欠な現状認識の更新を迫るものだと言える。
同書の冒頭では、まず4つの問いが挙げられている。<いったい何が彼ら彼女らに祖国を去る決心をさせたのか?
どういう中国人が日本に来ているのか?
なぜ他ではなく日本なのか?
日本で日々何を思いながら暮らしているのだろう?>
これらの問いに対する答えの詳細を知りたければ、同書を手にしていただくほかない。ここでは今回のトークイベントで筆者の問いに対して彼が語ったことやメールのやりとりから同書の内容の一部を紹介したい。



