実際、歴史を振り返れば、手厚い退職パッケージを受け取った優秀な人材が、その後大成功を収めた例は数多くある。たとえば、1981年にウォール街の投資銀行ソロモン・ブラザーズがコモディティ取引会社フィブロと合併した際、当時39歳だったマイケル・ブルームバーグは1000万ドル(約15億2100万円)の退職金を受け取って会社を離れ、その後、世界有数のメディア帝国を築いた。
今ではブルームバーグは世界で17番目に裕福な人物となり、その保有資産は1047億ドル(約15兆8000億円)に達している。
一方で、大規模な人員削減が企業の業績に悪影響を及ぼすこともある。2023年12月に全従業員の17%を解雇したスポティファイは、2024年第1四半期の決算で、利益目標とユーザー成長予測の達成に失敗した。同社のダニエル・エクCEOは、決算説明会で「今回のレイオフは、予想以上に日常業務に影響を及ぼした」と認めた。
民間企業の早期退職パッケージは一般的に特定の部門や役職に絞りこんで実施され、不要な職種を削減する一方で、退職者を補充する必要をなくしている。また、高賃金で定年が近い従業員を対象にすることで、年齢差別禁止法の問題を回避しつつ人員削減を進めている。
しかし、今回のトランプ政権の措置はこれとは対照的なものだった。米国人事管理局(OPM)は、軍人や米国郵政公社(USPS)などの一部を除くすべてのフルタイムの連邦政府職員に対し、部門や役職を問わず退職を勧奨する最大2万5000ドル(約380万円)の奨励金を提示した。
では、なぜ政府は、特定の省庁や職種に狙いを定めたプログラムを実施しなかったのか。共和党が支配する議会が削減対象を確定させるまで待つ方が、不要な人材を削減しつつ、重要な人材を失うリスクを抑えられたのではないか。
この疑問に対し、南カリフォルニア大学でパブリックポリシーを専門とするウィリアム・レシュ准教授は、「トランプ政権は、連邦職員を単なるコストだと考えたようだ。この措置は、過去1世紀で最大かつ最も広範な政府職員の再編成になった」と語った。