米紙ワシントン・ポストは2月7日、「英政府の治安当局はアップルに対し、世界のすべてのユーザーがクラウド上に保管するあらゆる情報を抜き取れるバックドア(裏口)の仕組みの導入を命じた」と報じた。この措置は、すべてのiCloud上のデータに適用されるため、iPhoneだけでなく、iPadやMacからアップロードされたデータも対象になるという。
この要求は、特定のアカウントにアクセスするためのものではなく、「暗号化されたデータを一括で閲覧できる能力」を求めるもので、「主要な民主主義国では前例がないものだ」と、この記事では指摘されている。これは英国政府が発した要求ではあるが、他国のユーザーにも影響が及ぶと考えられる。
アップルは、この要求を拒否する可能性が極めて高い。同社は、これまで一貫してプライバシーが基本的人権であると主張し、過去にも米連邦捜査局(FBI)の要求を拒否してきたからだ。
英国政府は、2023年にもアップルにiMessageやFaceTimeの通話へのアクセスを求めたが、その際に同社は、これに応じるぐらいであれば、これらのサービスを英国で利用できなくすると主張していた。
アップルは、今回の英国政府の要求についてコメントしていないが、今回も同国における暗号化ストレージの提供の停止を申し出る可能性が高い。しかし、それでも英国政府を納得させるには不十分かもしれない。今回の要求の根拠となっているのは、批評家の間で「のぞき見憲章」と呼ばれる2016年に成立した調査権限法(Investigatory Powers Act)だ。
もし英国政府がこの要求を強硬に押し通した場合、アップルが英国のユーザー向けの暗号化データサービスの提供を停止し、結果的に現地のユーザーが現在よりも低いセキュリティ環境に置かれる可能性がある。
また、もう1つのシナリオとしては、英国政府が最終的にこの要求をひっそりと撤回し、裁判所要求などの従来の法的手段に訴えることも考えられる。
(forbes.com 原文)