まるでモンティ・パイソンの脚本から抜け出たような展開だが、ワシントン・ポスト紙は、英国政府がアップルに対して秘密裏に、いわゆる「Technical Capability Notice(テクニカル・ケイパビリティ・ノーティス)」を発行し、完全に暗号化されたクラウドストレージのアカウントに諜報機関や法執行機関がアクセス可能なバックドアを提供するよう要求したと報じている。
ここでさらに皮肉なのは、アップルがこの通知を受け取った事実を認めることも、協議があったことを公にすることも許されない点だ。ユーザーに何が起きたかを知らせることも、アカウントのセキュリティが弱体化した事実を伝えることもできない。異議を申し立てることはできるが、審理を待たずに変更を実施しなければならない。
Signalのメリディス・ウィタカーは、この事態を的確に要約している。「テクニカル・ケイパビリティ・ノーティスを使って世界各地の暗号化を弱体化させるのは衝撃的な行為です。英国をテック界のリーダーではなく、テック界の厄介者にしてしまうでしょう。もし実施されれば、この指令は私たちのグローバル経済の神経系に危険なサイバーセキュリティの脆弱性をもたらすことになります」
セキュリティ機関、規制当局、立法者、大手テクノロジー企業の間で何年にもわたって続いてきた暗号化を徹底的に守るという議論は、これによって一瞬にして無に帰す。
間違えてはいけない、安全なバックドアなど存在しない。暗号化された領域を弱体化させれば、善意の主体だけでなく悪意の主体にも利用されることを想定しなければならない。そして英国がこれを実行するなら、中国やロシアが同じことをするのを止められるものは何もない。
さらにばかげているのは、この英国による命令が管轄を問わず、すべてのiCloudデータに適用されるとされている点である。つまり米国のデータも対象となり、それが深刻な懸念を生んでいるが、本来どこにも適用されるべきではない。