体験型エンタメとは、自らが物語や世界に入り込み、五感をフル活用して楽しむコンテンツのこと。
「映画や漫画のように受動的に楽しむのではなく、自らアクションを起こし、その世界観に介入していく。自分が主人公となって物語を紡ぐ特別な体験ができるのが魅力です」
そう語るのは、2024年6月に「NO MORE」を共同創業したChief Creative Officer(CCO)の広屋佑規。同社はIPやオリジナルコンテンツを活用した体験型エンタメを企画開発・プロデュースし、グローバル市場を狙う。
世界的には、体験型エンタメは「ロケーションベースドエンターテインメント(LBE)」という枠組みでとらえられることが多い。テーマパークや音楽フェスなどはまさしくLBEだが、より深い没入感を実現するコンテンツが増えている。
11年からブロードウェイで上演されている「Sleep No More」がその先駆けで、10年代後半からは「イマーシブシアター」や「マーダーミステリー」なども登場。従来のテーマパークや劇場などの箱型施設だけでなく、公共空間や遊休不動産を非日常的なエンタメ空間に変貌させるなど、その舞台装置も多様化している。
体験時間は長いものだと数時間あり、世界観の構成を担う役者(スタッフ)と観客の比率は「1対多数」ではなく、「1対少数」ときには「1対1」に近いかたちで進行するため、より濃密でパーソナルな時間を過ごすことになる。こうした特徴から、「没入型」「イマーシブ」をキーワードに、ブランドの世界観を消費者により深く伝えるポップアップストアやイベントを開催する企業も増えている。
「VRやメタバースのような仮想空間での没入体験も、似たジャンルではあります。ただ、VRゴーグルやディスプレイを通さないフィジカルな体験は、より深い感情の動きや記憶の定着につながりますし、体験型エンタメは今後ますます伸びていくジャンルだと思っています」
世界のLBE市場規模は約1兆円といわれており、コロナ禍で一時的に縮小したものの、再び成長軌道に乗っている。日本でも24年3月に世界初のイマーシブ・テーマパーク「イマーシブ・フォート東京」が東京・お台場に開業した。とはいえ、体験型エンタメの本場とも言えるNYやロンドン、そして近年巨大市場に成長している中国と比較すると「日本はまだまだ黎明期」と広屋は語る。