巨大化し過ぎたVC
VCファームのパートナーが古巣を離れる理由は、それぞれ異なり、単純に説明できるものではない。しかし、彼らが自発的に飛び出したのか、押し出されたのかにかかわらず、ここ最近VC業界で起きている変化の背景には、2つの大きな要因がある。それは、「経済的インセンティブの低下」と「VCの巨大化」だ。投資を成功させたパートナーたちにとって、報酬体系の変化は業界内に広がる不満の原因となっている。多くのファームではファンドの規模が拡大するにつれて、パートナーが得られるキャリー(成功報酬)の額が相対的に低下している。
「ファンドのリターンが3倍から5倍になっているときには、誰も辞めたいとは思わない」と語るのは、投資家のエグジット交渉に関与する法律事務所ローレンステイン・サンドラーのエド・ジマーマンだ。しかし、一部の巨大ファンドは最近、初期投資を取り戻すことにすら苦労しているという。「ここ1~2年、クライアントたちが『自分のファンドのキャリーにあまり自信が持てない』と語るのを何度も聞いた」と彼は付け加えた。
一方、「大手のVCにいると、必ずしも仕事の成果が報酬に結びついているとは限らない」と話すのは、Category Ventures(カテゴリ・ベンチャーズ)創業者のヴィリ・イルチェフだ。彼は、クオンツファンドのTwo Sigma(ツーシグマ)のVC部門を離れ、昨年12月に1億6000万ドル(約249億円)規模のファーストファンドを立ち上げた。
さらに、「大規模な組織で活躍できるパートナーもいれば、独立心が旺盛な一匹オオカミのような投資家もいる」とコンビクションのバーナルは述べている。近年は、a16zやゼネラル・カタリスト、NEAなどの大手が資産規模を数百億ドル規模に拡大する中、VC業界がプライベート・エクイティ(PE)のような環境に変貌し、小回りが効かなくなったという指摘も上がる。
また最近では、IPOや大型買収の減少により、VCや投資家が資金を回収できるエグジットの機会が限られている。このため、一部のファンドは小規模なファンドへと移行し、レイトステージの投資を停止せざるを得なくなった。この影響を特に受けているのが、若手のパートナーや、コンシューマー向けやグロースステージを専門とするパートナーたちだ。AIへの関心が高まる中、多くのVCがより技術的な専門知識を持つ投資家を中心に組織を再編している。


