④KEYWORDS|CHILLOUT TECH

青木俊介|ユカイ工学CEO
チルアウトテックで世界の感情を動かす震源に
「『甘がみ』は世界中の人類が体験しているはずなのに、あまり認知されてない。日本人特有の感性が生み出した言葉なんです」そういって青木俊介に差し出されたのは、トロンと眠そうな目のぬいぐるみだった。その口に指を入れると、ランダムなかみ方で甘がみしてくれる。こんな今までにない体験を提供するのが、青木率いる「ユカイ工学」が開発するロボット「甘噛みハムハム」である。
「甘がみは、赤ちゃんや幼いペットの短い期間にしか体験できない幸せなしぐさ。この癒やしのひとときを再現したかった」。企業名の通りユカイ工学は、毎日をちょっと楽しくしてくれるチルアウトテックを開発している。
例えば「Qoobo」は、しっぽのついたクッション型セラピーロボット。なでる強さに応じて気まぐれにしっぽを振って応えてくれる。また最新の「fufuly」は、生き物が呼吸するようにふくらんだり縮んだりするクッション。触れ合う仲間の呼吸につられる生き物の性質を基にしている。
2000年、猪子寿之とともに最高技術責任者(CTO)としてチームラボを立ち上げた青木。ただ、ソフト系エンジニアとして画面上でどれだけ壮大なものをつくっても、その画面の外に出られないのがもどかしかった。「画面の外に出たい」と07年にユカイ工学を創業した。
「面白さって勝ち負けがないじゃないですか。いろんな面白さがあっていいし、基準が無限にあるんです」
私たちの目の前には一見豊かな社会が広がっている。しかし、相対的に幸福度の低さを指摘される我ら日本人の間にまん延するのは、そこはかとなく広がる不安感だ。それは、常にそこにある自然災害への危惧。そして、疫病や戦争をはじめとした世界のリスク要因である。
だからこそ青木は、ユカイ工学で「ロボティクスで、世界をユカイに。」をビジョンに掲げ、世の中に「愉快」を提供する。すでに存在するものや与えられたものに対する表現である「楽しさ」ではない。意識的に、能動的に感じる「愉しみ」を、である。
コロナ禍を経て、ユカイ工学のそのビジョンが世界中で共感を得るようになった。23年には、世界最大級のテクノロジー見本市「CES」で、家族との絆をつなぐコミュニケーションロボット「BOCCO emo Platform」と前述の「fufuly」がイノベーションアワードを受賞した。同社はこれまでも出展していたものの見向きもされない状況だったが、ここへ来てダブル受賞。同社以外の癒し系ロボットも受賞し機能性以外の「癒やし」という新たなセグメントを確立したのだ。
「ロボットは、スマートフォンのガラスの次に来る、人の心を動かす次世代のインターフェースになる」
青木はそう確信する。スーパーマリオもポケットモンスターもハローキティもそうだったように、日本は世界中の人々のエモーションを動かす震源になれる。次にそのキーを担うのが、青木が“ユカイ”に開発を続けるチルアウトテックなのではないだろうか。